清掃の分類
日常清掃で除去する汚れと定期的に除去する汚れを区別することによって、作業効率と作業成果の向上が得られる。
ビルクリーニングの5原則は、建材・汚れ・洗剤・作業方法・保護膜の知識である。
清掃における衛生管理の基本はゾーニング管理であり、建材や汚染度を考慮して使用する清掃用具を分けて作業する。
作業頻度による分類では、日常清掃・定期清掃・臨時清掃がある。
日常清掃
1日1回以上行う清掃。
日常清掃で行うものは基本的に、ゴミ収集、高所以外の箇所の除じん、トイレや流し台など水まわりの洗浄、手垢が付く箇所の水拭きなどである。
トイレ・洗面所・灰皿の清掃、事務室のゴミ収集。
床・玄関ホールのフロアマット・エレベータのカゴ内部・エスカレータのランディングプレート・ドアノブ・手すりの金属部の除じん。
建物外周や駐車場の除じん。
流し台の洗浄、エレベータ内壁・手すり・ドア等の水拭き。(洗剤拭きは定期清掃で行う)
カーペットのしみ取り。(日をおくと、しみが取れなくなるため)
管理用区域(電気室、更衣室や作業員休憩室など)は、汚れの発生量は少ないが日常清掃で清潔の保持に努める。
外周区域・共用区域・専用区域(事務室など)は、頻繁に使用されるので、1日に1~2回清掃を行う。
ダストモップなどを用いて、土砂やほこりを除去する。
定期清掃
週1回、月1回など、一定の間隔で行う清掃。
定期清掃で行うものは基本的に、高所部分の除じん、水まわり以外の洗浄、洗剤拭き、磨きなどである。
トイレ・洗面所の換気口・壁面など高所の除じん。
廊下壁面のスイッチ回り・エレベーターやエスカレータのパネル類の洗剤拭き。
玄関フロアマットの洗浄。廊下壁面のスポット洗浄。
ドアノブなど金属類の磨き。
大掃除
6か月以内ごとに1回おこなう清掃。
日常清掃の及びにくい箇所等の汚れ状況を点検し、必要に応じ除じん、洗浄を行う。
臨時清掃
予定外の清掃。
予防清掃
汚れをつきにくく、付いた汚れを除去しやすくすることにより、衛生や美観を向上し、作業の効率化を図る。
ほこりの予防には、ほこりの侵入防止と発生防止の対策がある。
ほこりの侵入防止には、出入り口に防塵フロアマットを敷く、扉を自動開閉式又は回転式にする、入口に前室を設置する、エアカーテンを設置するなどがある。
ほこりの発生防止には、内装材に摩耗しにくいものを使用するなどがある。
汚れの予防には、床材へシール材(隙間を塞ぐ)や床維持剤を塗布する、建材に洗剤分を残さないなどがある。
清掃と建材の選択
建材の選択に当たっては、清掃の立場を考慮して選ぶ。
汚れは、平滑緻密な表面には付着しにくい。凹凸が多くて粗い表面には付着しやすく、付着すると除去しにくい。
汚れが内部にしみ込みやすい建材は、汚れの除去に手間がかかる。
さびやカビなどを生じやすい建材は、後の処理に手間がかかる。
親水性の建材には、水溶性物質が付着しやすい。
疎水性の建材には、水溶性の物質が付着しにくいが、油溶性の物質が付着しやすい。
耐水性のある建材は、汚れの除去に水を使用することが多いため、清掃しやすいものが多い。
硬性床材などの凹凸があるものや、吸水性のある建材は、洗剤分が残っていれば再汚染を促進させるので、汚水や洗剤分を可能な限り除去する。
清掃の作業計画
建築物の清掃は当該建築物の用途、使用状況並びに劣化状況、建築資材等を考慮した年間作業計画及び作業手順書を作成し、その計画及び手順書に基づき実施する。
清掃作業計画の作成
建築物の清掃管理仕様書と清掃作業基準表に基づいて、計画的に作業ができるように作業計画と作業手順書を作成する。(人による記憶や経験に頼らないようにするため)
作業計画に基づき、日常清掃と定期清掃の予定表を作成し、適正な人員配置を行う。
計画的な作業管理により、記録の保存によって責任の所在が明確になる。トラブルの発生に対する処理を迅速化する。
帳簿書類には、清掃、点検及び整備を実施した年月日、作業内容、実施者名等を記載する。
限られた時間内に一定の成果が得られる。
清掃管理仕様書
清掃に関する委託内容が記述されているもの。
基本管理方針や作業範囲、作業環境、作業時間帯等を記載した総括的なもの。
清掃作業基準表
清掃仕様書の作業内容を詳細(面積・床材・種類・回数など)に図表などで示したもの。
作業計画作成の留意
作業にムリ、ムダ、ムラがないか留意して、作業実態に合わせて作成する。
作業時間は、平均的な従事者の時間で計算する。
作業計画は、季節や天候などを考慮する。
作業人員は、面積が同じであっても、使用用途が異なれば変化する。
清掃作業手順書の作成
作業名・作業項目・作業手順・使用剤と数量・注意事項・終了後の品質状態を記載する。
従事者の教育指導に用いる。
作業内容が明確化されているため、統一的な指導ができる。
記憶や経験を基にした個人的な管理ではないので、作業指示が円滑になる。
清掃現場責任者の業務
作業予定表の作成、作業手順書・作業ごとの使用資機材一覧表の作成、作業の指示・指導、作業終了時の点検確認(手直し指示・指導)がある。
清掃の評価
品質評価の目的の一つには、要求品質と実際の品質とのギャップを修正し、精度を向上させることがある。
品質評価の第一歩は、自らがセルフインスペクション(自己点検)を行い要求品質とのギャップを確認することである。
清掃の品質構成
清掃の品質は、作業品質と組織品質から構成される。
作業品質
場所毎の作業結果(ほこりや汚れの付着状況、臭気など)の良否。
組織品質
現場や企業の組織管理体制の評価。
組織品質は、事業所管理品質(事業所の管理体制)と現場管理品質(現場の管理体制・教育訓練・資機材管理など)の二つによって構成され、企業の規模に依存しない。
清掃の評価方法
品質評価の年間計画に基づき、評価範囲、実施日、点検時間、点検経路等を決定し、品質評価実施計画(インスペクション実施計画)を作成する。
品質評価実施計画に従い、事前に作成した品質評価シートなどを活用して、点検を実施する。
評価者は、業務に精通していることが望ましい。
評価は、所有者・利用者の立場になって行う。(清掃作業者ではない)
評価範囲は、汚染度合いの高い箇所などに重点を絞る。
評価方法には、測定機器(光沢度計等)を使用する検査と、目視等による官能検査(きれいさの評価)がある。
玄関ホールの清掃品質は、視線の方向や高さを変えて確認する。
改善点と再評価
仕様書に基づき、適正な作業計画に従って業務が適切に遂行されているか点検する。
作業の改善点は、仕様書や作業基準表に限定せず、建物全体の衛生性に着目して見出す必要がある。
作業仕様書が全く同一であっても、作業品質は異なることがある。
改善が必要と判断した場合は、評価者が清掃責任者に指示を行う。(清掃従事者ではない)
評価者は、改善を指示した箇所について、指示どおりに改善されているか再点検し、その結果を基に再評価を実施する。
点検・評価の間隔
作業の評価は、長期的維持保全の観点から日常的チェックだけでは不十分である。清掃の実施状況を定期に点検し、必要に応じ適切な措置を講じる。
清掃責任者が自主的に行う場合は、定期的に月1回業務の締めくくりとして実施する。
管理者は、作業計画及び作業手順書に基づく清掃作業の実施状況について、3カ月以内に1回(四半期ごとに1回)点検・評価する。
清掃機械器具・清掃用資材の保管庫・廃棄物処理施設は、6カ月以内ごとに1回点検し、必要に応じて整備、取替え等を行う。
清掃の安全と環境対策
清掃の資機材倉庫
施錠できる構造とする。
適切な照明設備、換気設備を設け、資機材洗浄用の給排水設備を設ける。
設置位置は、資機材の移動などが容易に行える場所とする。
濡れたモップなどが置かれる場合があるので、床や壁面を不浸透性の建材にする。
建築物の規模・形態等により、エリアごとに資機材倉庫を設ける場合がある。
清掃における安全衛生
平常時から、正しい作業方法を従事者に教育・指導し、衛生管理訓練を行う。
清掃作業にかかわる事故の大多数は、転倒や転落事故なので、床面洗浄や高所作業の安全確保が重要である。
清掃作業に関わる転倒事故防止は、清掃従事者と第三者の安全確保のために行う。
転倒事故の防止対策として、出入口やコーナーでは第三者との接触に注意し安全を確保する、整理整頓して作業に当たるなどがある。
真空掃除機の集じん袋などを手入れする場合には、粉じんを吸入しないよう防じんマスクなどを着用して行う。
洗剤などは、使用説明書に従って使用し、保護手袋など、保護具を適切に用いる。
ローリングタワー(移動式足場)を用いる場合、作業者はヘルメットを着用する。
ゴンドラを操作する場合は、事前に安全のための特別教育が必要である。
ロープ高所作業では、労働安全衛生規則の定めにより、作業計画の策定、ライフライン(安全帯を取り付けるためのロープ)の設置などが義務付けられている。
人的基準
すべての従事者が1年に1回以上の研修を受けること。
清掃における環境対策
清掃作業に伴って生じる廃液は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律に加えて下水道法、水質汚濁防止法の規定を遵守し適正に処理する。
汚れの状況により、研磨剤の種類や、洗剤を使用するときの適正な使用量を考慮して選定する。
洗剤や床維持剤を選定するときは、利用者や清掃従事者等の健康及び環境への配慮を考慮する。
環境対策の化学的な対応
酸・アルカリ性の洗剤は中和して排出することがある。
分解性の良い、環境負荷にならない洗剤を選定する。
洗剤等を適正な温度で使用する。
環境対策の物理的な対応
洗剤容器などの廃棄物を減量する。
環境対策の作業的な対応
清掃時間の短縮を図る。
清掃頻度を少なくできる方法を選定する。
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