消毒・殺菌・滅菌
感染症発生時の消毒のために、建築物衛生管理担当者は消毒剤の種類や使用方法、対象物件等についての理解を深めておく必要がある。
すべての微生物を死滅させることを滅菌といい、その中の病原体のみを死滅させることを消毒・殺菌という。
消毒には、焼却・蒸気・煮沸・薬物の4種類がある。
滅菌
乾熱滅菌
高熱の空気を使用し、微生物の蛋白質を変性させて殺滅させる方法。
高圧蒸気滅菌
オートクレーブと呼ばれる装置内で、高温高圧の飽和蒸気で加熱して微生物を殺滅する方法。
芽胞にも有効である。
ゴムや革製品、漆器などは変質するため不向きである。
ガス滅菌
酸化エチレンガス(エチレンオキサイド)で、微生物を殺滅する方法。
放射線
放射線による滅菌では、エックス線、γ線が用いられる。
ろ過滅菌
0.2µm程度の孔径サイズのフィルタを使用する。
熱を使えない物質の滅菌に適している。
消毒・殺菌
紫外線
紫外線は、微生物やウイルスに含まれる核酸に作用することで、ウイルスを死滅させることができる。
日光より短時間で有効だが、人に対しては注意が必要である。
高低温や過湿では効果が落ちる。
消毒作用があるが滅菌作用はない。
消毒用薬物
一般に消毒薬は、液温が高く作用時間が長いほど、作用が強いといえる。
分解しにくいことが望ましい。
ホルムアルデヒド
ホルムアルデヒドは、すべての微生物(芽胞を含む)に有効である。
皮膚や粘膜に対して刺激性が強いため、食器に使用しない。衣類やプラスチック製品などに使用する。
タンパク質を凝固するので、し尿や喀痰の消毒には不向きである。
ホルマリンは、ホルムアルデヒドの水溶液である。
ホルムアルデヒドガスの消毒は、乾燥すると効果が落ちるため、同時に水を蒸発させて密封して行う。
昇こう水
昇こう水とは、塩化水銀に食塩を加えて水に溶かしたものである。
ホルマリン同様に毒性が強い。
飲食器具や玩具、し尿の消毒には使用しない。
現在はあまり使われない。
次亜塩素酸ナトリウム
次亜塩素酸ナトリウムは、漂白剤などで使用され、細菌やウイルスに有効だが、芽胞には無効である。
アルカリ性の無機系塩素剤である。
水道水・貯水槽の消毒や、食品・食器類に用いる。
日光にさらすと分解する。有機物が多く含まれると効力が減る。
原液濃度5%を約0.05%に希釈して使用する。
ノロウイルスの消毒にも利用される。
消毒用エタノール
消毒用エタノールは、細菌やウイルスに有効だが、芽胞や一部のウイルス(ノロウイルスなど)に対して無効である。
速効性があるので、手指や医療器具の消毒に用いられる。
使用濃度70%程度が最も殺菌効果が高い。
容器を開放すると濃度低下を招く。
過酸化水素
過酸化水素とは、オキシドールのことで、細菌やウイルスに有効である。
傷の消毒に用いる。
逆性石鹸
逆性石鹸は、高級アミンの塩(えん)からなる界面活性剤である。
細菌には有効だが、ウイルスや結核菌には効果が期待できない。
手指や金属器具の消毒に用いる。
塩化ベンザルコニウムを使用している。
クレゾール
クレゾールは、細菌に有効で、芽胞やウイルスには無効である。
有機物の共存が可能なので、手指などに用いる。食器の消毒には適さない。
次亜塩素酸カルシウム
次亜塩素酸カルシウムは、さらし粉と呼ばれるものである。
アルカリ性の無機系塩素剤である。
プールなどの消毒に用いられたが、最近は使用されなくなっている。
消毒作用が無いもの
トリクロルアミン、陰イオン界面活性剤、α線、水石鹸など。
塩素消毒
塩素は、多種類の微生物、細菌やウイルスに有効である。ノロウイルスや結核菌、芽胞には弱い。
刺激臭を有するため、異臭味が生じる。特定の物質と反応して臭気を強める。
消毒効果が高く希釈せずに使えて、人体への影響も少ないので、災害など緊急時の使用に適している。
ろ過器などがある場合は、装置内の消毒も含めて、その前段階に投入する。
塩素の化学反応
残留塩素は、水中に存在する遊離型及び結合型の有効塩素をいう。
残留塩素は、接触時間・残存有機物質の量等に影響され、塩素剤の残留の確認と濃度の定量が容易であることから、消毒効果の指標として用いられる。
遊離残留塩素
塩素は水中で加水分解し、イオン解離して生じた次亜塩素酸や次亜塩素酸イオンが殺菌・消毒効果を示す。これらは、遊離残留塩素と呼ばれる。
殺菌力の強さは、次亜塩素酸(HOCl)>次亜塩素酸イオン(OCl–)>ジクロラミン(NHCl2)>モノクロラミン(NH2Cl)の順となる。
塩素は酸性だが、次亜塩素酸イオンの割合が高くなると無機系塩素剤でアルカリ性となり、消毒効果が低くなる。
結合残留塩素
遊離残留塩素は、水中の窒素化合物(アンモニアなど)と結合して、結合残留塩素となる。
結合残留塩素の殺菌作用は極めて弱くなる。
トリハロメタン
消毒用塩素と有機物質が反応して、有害な有機塩素化合物が副生成される。
副生成物には、トリハロメタンで発がん性物質のクロロホルムなどがある。(トリクロロエチレンは含まない)
トリハロメタンは、水槽内の水温の上昇によって、その生成量が増加する傾向にある。
塩素への耐性
塩素へ耐性は、原虫>ウイルス>細菌の順で強い。
原虫であるクリプトスポリジウムによる胃腸炎が、水道水で発症する場合がある。
原虫シスト(体表に膜をかぶって休眠的な状態になったもの)は、塩素消毒に対する抵抗性が強い。
塩素消毒の効果
塩素消毒の溶解速度、反応速度は温度が高くなるほど速くなる。無機系塩素剤の方が速い。
懸濁物質が存在すると、その種類、大きさ、濃度等によって効果が低下する。
CT値
消毒効果の指標として使われる。(除菌99%に必要なCT値など)
消毒剤の濃度と接触時間との積である。
殺菌の効果は、濃度と接触時間に比例するので、濃度と接触時間の関係は反比例になる。
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