増幅回路とは
増幅回路は、電圧、電流、電力などの入力信号を増加させる回路である。
増幅回路の種類
- 電圧・電流増幅回路:交流信号の電圧や電流を増幅する。
- 差動増幅回路:2つの入力電圧の差を増幅する回路。オペアンプなどを使用する。
- 電力増幅回路:入出力が電力で定義され、負荷側に電力を出力することを目的とする。
- 高周波増幅回路:高周波の受信信号を増幅する。
増幅度(ゲイン・利得)
増幅回路やフィルタ回路における入力と出力の比を表す。
増幅度G=出力/入力
電力をデシベル[dB]で表す場合は、増幅度の常用対数(log10)を10倍する。
電力利得=10logG [dB](G:増幅度)
電圧・電流をデシベル[dB]で表す場合は、増幅度の常用対数(log10)を20倍する。
電圧・電流利得=20logG [dB](G:増幅度)
例:増幅度100の電圧をデシベルで表す場合、20log102=40[dB]となる。
トランジスタ増幅回路(バイポーラ型)
エミッタ接地増幅回路
入力と出力の共通端子がエミッタで、ベースに入力電圧を印加することで、コレクタから出力電圧を取り出す回路。
電圧と電流の両方を増幅可能で電力利得が大きいため、最も主要な回路である。
- 入力側:ベース-エミッタ間
- 出力側:コレクタ-エミッタ間(ベースの入力信号を増幅してコレクタに出力する)
- 電圧増幅率:VC/VB (大きい、数10~数100)
- 電流増幅率:β(hfe)=IC/IB(大きい、数10~数100)
- 入出力位相差:逆位相(位相差180度)
- 周波数特性:悪い(ミラー効果により高周波で増幅率が低下する)
- 用途:低周波の増幅
電流増幅率:$\displaystyle β(h_{fe})=\frac{I_C}{I_B} I_E=I_C+I_B$
簡易小信号等価回路
ベース側回路入力電圧:Vi=hie×IB(hie:トランジスタの入力インピーダンス)
コレクタ側回路出力電圧:Vo=R×IC(R:コレクタ抵抗と負荷抵抗の合成抵抗)
定電流源:IC=hfe×IB(hfe:電流増幅率)
ベース接地増幅回路
入力と出力の共通端子がベースで、エミッタに入力電圧を印加することで、コレクタから出力電圧を取り出す回路。
- 入力側:エミッターべース間
- 出力側:コレクタ-ベース間(エミッタの入力信号を増幅してコレクタに出力する)
- 電圧増幅率:VE/VC(大きい、数10~数100)
- 電流増幅率:α=IC/IE(小さい、1程度)
- 入出力位相差:同相
- 周波数特性:非常に良い(ベースの接地によりミラー効果を抑止する)
- 用途:高周波の増幅
電流増幅率:$\displaystyle α=\frac{I_C}{I_E} I_E=I_C+I_B$
コレクタ接地増幅回路(エミッタホロワ回路)
入力と出力の共通端子がコレクタで、エミッタ出力電圧がベース入力電圧を追従するように動作する回路。
入力インピーダンスが大きく、出力インピーダンスが小さいため、出力インピーダンスの大きい信号源が低インピーダンスの負荷を駆動できるようになる。(電圧緩衝増幅器として機能する)
- 入力側:ベースーエミッタ間
- 出力側:エミッタに接続された抵抗間(ベースの入力信号を増幅してエミッタに出力する)
- 電圧増幅率:ΔVE/ΔVB(小さい、1程度)
- 電流増幅率:IE/IB(大きい、数10~数100)
- 入出力位相差:同相
- 周波数特性:良い
- 用途:インピーダンスの変換
バイアス電圧と増幅回路
トランジスタの増幅作用は、ベース電位の立ち上がり電圧付近で微細に変動させることで起こる。
ベースに入力されてくる微細な信号の変化に連動してコレクタ電流が増減する状態を維持するためには、入力信号が0であってもトランジスタがON状態を維持できる電圧を常にベース・エミッタ間にかけておく必要がある。
この入力信号を底上げするための直流電圧をバイアス電圧と言い、バイアス電圧を作り出すための回路をバイアス回路という。
2個の電源を用意するのは不経済なので、コレクタ側の電源を抵抗で分圧してベース側の電源として使用する1電源方式が一般的である。
特性図と負荷線
下記の回路は、入力信号vBE→出力信号vCEのエミッタ接地回路である。
エミッタ接地回路でバイアス電圧VBE0を決める。
エミッタ接地回路
ICーVCE特性図
IBーVBE特性図
バイアス電圧VBE0と入出力信号の範囲
- 負荷線を引く。
・VCE=0の時のICを求める。(IC=VCC/RC)
・IC=0の時のVCEを求める。(VCE=VCC)
・ICーVCE特性図において、この2点を結んだ直線が負荷線となる。 - コレクターエミッタ間電圧VCEの動作点VCE0を求める。
・エミッタ接地回路では、動作点は電源電圧VCCと0Vの真ん中付近をVCE0に設定する。 - ベース電流IBのバイアス電流IB0を求める。
・ICーVCE特性図と負荷線において、動作点VCE0の時の交点のベース電流IBが、バイアス電流IB0となる。 - ベースーエミッタ間電圧VBEのバイアス電圧VBE0を求める。
・IBーVBE特性図において、バイアス電流IB0の時のベースーエミッタ電圧VBEが、バイアス電圧VBE0となる。 - 入力信号vBE(iB)による出力信号のvCE(iC)の範囲を求める。
・入力信号vBE(iB)は、動作点VCE0(IC0)のバイアス電流IB0の交点を中心として負荷線上を動く。
・出力信号vCE(iC)は、入力信号vBE(iB)の負荷線の動きに対応し、動作点VCE0(IC0)を中心に上下する信号となる。
負荷線
- 直流負荷線:直流の負荷線で、コレクタ側の抵抗成分のみを考えたもの。(上記で使用している負荷線)
- 交流負荷線:交流の負荷線で、コレクタ側のインピーダンス(抵抗+コイル+コンデンサ)を考えたもの。
エミッタ接地のバイアス回路
トランジスタの電流増幅率hfeは温度上昇で増幅する特性があり、出力であるコレクタ電流(IC=hfe×IB)が温度変化で変動する可能性がある。
バイアス回路は、温度変化が生じてもコレクタ電流が安定するものが望ましい。
固定バイアス回路
ベース電流IBを流す抵抗Rと、負荷抵抗RCを直接電源に接続する。
抵抗Rによってコレクタ-エミッタ間の電源電圧を分圧してベース-エミッタ間の電圧を作る。
回路が簡単である。バイアス抵抗による回路損失が少ない。
温度変化によるコレクタ電流ICの変化が直接影響するため、安定度はあまりよくない。
- VCC=ICRC+VCE
- VBE=VCCーIBR
VCC=IBR(VBE<<VCCのため) - 負荷線は以下の式より値を求めて直線を引く。
VCC=ICRC+VCEより、
IC=0のときVCE=VCC
VCE=0のときIC=VCC/RC - 出力特性図と負荷線の交点より、動作点→IBが求まる。
VCC=IBRより、Rが求まる。
自己バイアス回路
ベース電流IBを流す抵抗Rを直接電源に接続せずに、負荷抵抗RCの下に接続する。
温度変化によってコレクタ電流ICが増加した場合に、負荷抵抗RCの電圧降下が増加することで、VCEが減少する。その結果ベース電流IBが減少してコレクタ電流(IC=hfe×IB)も減少させることができる。
上記の理由より、温度変化に対する安定度がよい。
電圧利得が低い。回路が複雑である。直流損失が多くなる。
- VBE=VCCーIERC-IBR=VCEーIBR
電流帰還バイアス回路
固定バイアス回路に、エミッタからRE、ベースからエミッタ接地へRBの抵抗を接続する。
抵抗REの挿入により、コレクタ電流ICの変化を打ち消すようにVBEを変化させることができる。
上記の理由より、温度変化に対する安定度がよい。
抵抗R、RBに大きな電流が流れるようにすることで、ベース電流IBを無視できるようにしている。これにより、RとRBの分圧比からVBを決めることができ、設計を容易にしている。
周波数特性が良い。歪や雑音が少ない。温度変化に対する安定性がよい。
電圧利得が低い。回路が複雑である。直流損失が多くなる。
- 電源電圧VCCは、RBとRの分圧の式で分圧される。
VR=(R/R+RB)×VCC、VB=(RB/R+RB)×VCC
VCC=RCIC+VCB+VBE+REIE - IBが小さいのでIE=ICが成り立つ。
VR=VCB+RCIC=VCB+RCIE
VB=VBE+REIE=VBE+REIC
VCC=RCIE+VCE+REIE=RCIC+VCE+REIC
トランジスタ増幅回路(FET)
ソース接地増幅回路
入力信号Vi、出力信号Voのソース接地の増幅回路。
バイポーラ型のエミッタ接地回路に相当する。
下記回路は、抵抗R1とR2によって電源電圧VDDを分圧するバイアス回路になっている。
ゲート-ソース間の電圧VGSはバイアス電圧で、この電圧を中心に入力信号が変化する。
FETなのでゲート電流は0であるから、ゲート-ソース間の電圧はR1とR2の分圧の式より求まる。VGS=R1/(R1+R2)VDD
出力信号(出力電圧)はドレイン-ソース間電圧(動作点)を中心に変化する。
入力側のバイアス電圧をVGS決めるには、エミッタ接地回路と同様に負荷線を利用する。IDーVDS特性曲線で負荷線を引き、必要なVDS(動作点)と交わった特性曲線のVGSが、適切なバイアス電圧VGSとなる。
動作点における負荷線上で入力信号は変化し、それに対応したVDS軸で出力信号は変化する。
接合型FETのソース接地増幅回路(自己バイアス)
ゲート-ソース間の電圧VGSはバイアス電圧(接合型nチャネルなので負電圧)で、この電圧を中心に入力信号が変化する。
バイアス電圧VGSは抵抗RSによって決まる。
FETなのでゲート電流IG=0であり、抵抗RSの電流はドレイン電流IDとなる。従って以下が成り立つ。
VS= RS×ID
ゲートは抵抗RGにより接地されていて、VG=0となる。従って、以下が成り立つ。
VS+VGS=0
ドレーンーソース間の電圧VDSは以下となる。
VDS=VDDーRDIDーRSID
オペアンプ(演算増幅器)
入力端子の微小な電圧差を、大きく増幅した電圧を出力する差動増幅器。
差動増幅器とは、入力信号のノイズ(同相成分)を除去して、必要な信号(差動成分)だけを増幅する回路。
入力端子が反転入力(ー)と非反転入力(+)の2つで、出力端子が一つの回路である。
抵抗との組み合わせで増幅回路や、コンデンサとの組み合わせで微分、積分出力回路を実現できる。
電圧利得(電圧増幅度)が非常に大きい。
周波数特性は平坦である。
入力インピーダンスが非常に大きいので、入力電流はほぼ0である。
出力インピーダンスが非常に小さいので、負荷の影響を受けにくい。
周波数特性に寄らないので、直流・交流どちらでも利用できる。
オフセット電流、電圧(出力を0にするための入力値)は0である。
動作に電源が必要で、最大出力電圧はオペアンプの電源電圧値となる。
イマジナリショート(バーチャルショート)
オペアンプの回路では、入力端子の電圧差は出力端子に対して微小な値のため、回路上は入力端子二つは短絡していると考える。(V=0)(仮想接地、バーチャルグランドともいう)
以降の増幅器の公式は入力端子を短絡した回路から近似値として求められている。
反転増幅器(逆相)
入力信号(電圧)に対して出力信号(電圧)の位相が180度変化する(負となる)増幅回路。
$\displaystyle A_v=\frac{V_2}{V_1}=-\frac{R_2}{R_1} $
非反転増幅器(正相)
入力信号(電圧)に対して出力信号(電圧)の位相が同相である増幅回路。
$\displaystyle A_v=\frac{V_2}{V_1}=1+\frac{R_2}{R_1} $
ボルテージホロワ回路
オペアンプを使用した回路で、入力電圧をそのまま出力する回路。
増幅率(Vo/Vi)が1倍で、入力インピーダンスが大きく、出力インピーダンスが低いので、インピーダンスの変換ができる。前段と後段の回路が互いに影響を受けなくするためのバッファ回路として使用される。
入力の2端子は短絡(イマジナリショート)していると考えてよいので、非反転増幅器で、R1=∞、R2=0にすれば実現できる。
比較器(コンパレータ)
オペアンプを使用して、2端子の電圧を比較して、結果を出力する。
入力端子(+)の電位>入力端子(ー)の電位が成立すれば+電源電圧を出力する。
入力端子(ー)の電位>入力端子(+)の電位が成立すればー電源電圧を出力する。
シュミットトリガ回路
入力のアナログ信号を2つの閾値と比較して、ディジタル信号として出力する回路。
出力が変化する立上がり閾値と、立下がり閾値が異なる。
反転型は、下図の青線のように入力電圧を上げていく時、最初はHighを出力し、立下がり閾値VIHを超えたときにLowとなる、入力電圧を下げていく時は、最初はLowを出力し、立上がり閾値VIL下回るとHighとなる。
非反転型は、下図の緑線のように逆となる。
入力の電位が2つの閾値の間にあるときは直前の出力を保持するというヒステリシス特性をもつ。
電力増幅回路
高電圧・大電流を供給できる増幅器。
大きな出力を得るためにトランジスタを最大定格内の広い領域で動作させる。
A級
動作点を全周期で出力電流(コレクタ電流)が流れるところに選定する。
波形のひずみが無いが、回路発熱が大きく、効率は50%以下である。
B級
動作点を正の半周期のみ出力するところに選定する。
バイアスをかけないので、入力が無い時はコレクタ電流が流れず、低振幅部分の波形はひずむが、効率は良い。
微小のバイアスをかけて低振幅部分の波形のひずみを解消したAB級という方式もある。
B級プッシュプル増幅回路
B級の電力増幅回路を2個逆方向で合わせたもの。
入力側でトランスを介した入力信号を、上下対称にトランジスタを置き、直流電源を用いて正電位波と負電位波を増幅する。出力部分のトランスで増幅信号を取り出す。
C級
負のバイアスをかけて、動作点を半周期よりさらに短い時間出力するところに選定する。
ひずみは大きいが効率は良い。ひずみの要因となる高周波の増幅で使用される。
増幅回路の現象と改善
トランジスタのミラー効果
例えばエミッタ接地回路(ソース接地回路)において、入力側のベース(ゲート)から見た時に、ベースーコレクタ(ゲートードレイン)間に存在する静電容量が、(1+電圧増幅度)倍に増幅されてベースーエミッタ(ゲートーソース)間に存在しているように見える現象のこと。
増幅回路の周波数特性に影響を及ぼす。
ローパスフィルタが形成された状態になり、高周波が制限される。
帰還増幅回路
増幅器は入力の信号をそのまま振幅して出力する装置だが、高い周波数では高い利得が得られず、不要な成分が出てきてしまう。
この不要な成分の発生を減少させるため、出力の一部を入力側に戻して入力から減算したものを増幅器の真の入力とする回路。
入力の位相を逆にする場合は負帰還となる。
正帰還では、「発振」といった現象を引き起こす。(「発振回路」参照)
負帰還では、増幅度(利得)の低下が生じるデメリットと引き替えに、帯域幅の増加・ひずみや雑音の低減・周波数特性の改善といったメリットがある。
増幅器の増幅度をA、帰還率をβとすると、
増幅器の入力は、帰還回路前の入力をVinとすると、VinーβVoutとなる。
増幅器の出力は、Vout=A(VinーβVout)となる。
回路の増幅度(Vout/Vin)は、
Vout=AVinーAβVout
AVin=Vout+AβVout
Vout/Vin=A/(1+Aβ)
Vout/Vin=A/Aβ(増幅度Aが1より非常に大きな値の時、1を無視する)
回路の増幅度=1/βとみなすことができる。
ダーリントン接続
複数のトランジスタを直結したもの。(1つめのトランジスタの出力電流を次のトランジスタの入力電流として使う)
小さなベース電流で大きなコレクタ電流を制御することができる。
コレクターエミッタ電圧が大きくなり、消費電力が増える。また、スイッチング時間が長くなる。
CR結合増幅回路
コンデンサを入れることによって、直流成分をカットし交流成分だけ取り出せるようにした回路。
結合コンデンサC1、C2により、直流成分をコンデンサ側に流してカットし、交流成分を取り出す。
バイパスコンデンサC3により、交流成分をコンデンサ側に流すことでエミッタ電圧の低下を小さくして電圧増幅度を大きくする。
高域周波数ではミラー効果、低域周波数ではバイパスコンデンサC3のインピーダンスが大きくなりバイパス機能が低下して、信号増幅度が低下する。そのため、中域からの増幅度低下が3dB以内のところまでが周波数帯域幅となる。
前段と次段の増幅回路はコンデンサーによって直流的に切り離すことができるので、バイアス回路を設計しやすく、周波数帯域が比較的広くとれる。
発振回路
増幅回路の出力の一部を入力に帰還させることにより、電気的に繰り返し振動を発生する回路。
増幅器で広帯域の周波数入力が増幅され出力される。この出力信号のうち、発振を持続させたい周波数を帰還回路を通して、増幅器の入力として正帰還させる。
正帰還された信号は、増幅回路で増幅され続けるが、飽和特性によってやがて一定の振幅に落ち着く。
発振回路の条件としては、増幅器の入力信号と帰還回路の出力信号が同相であること。また、増幅度×帰還度≧1であることが必要である。
LC発振回路
コイル(L)とコンデンサ(C)で構成される正帰還発振回路には、以下の図のようなコルピッツ回路、ハートレー回路などがあり、発振周波数は共振周波数と同じになる。
$\displaystyle コルピッツ回路:f_0=\frac{1}{2π\sqrt{L\left(\displaystyle\frac{C_1C_2}{C_1+C_2}\right)}} \ [Hz] $
$\displaystyle ハートレー回路:f_0=\frac{1}{2π\sqrt{C(L_1+L_2)}} \ [Hz] $
CR発振回路
コンデンサ(C)と抵抗(R)を使用した発振回路には、ウイーンブリッジ発振回路がある。
非反転増幅回路に帰還回路を加えることで発振回路を構成している。
$\displaystyle ウイーンブリッジ発振回路:f_0=\frac{1}{2π\sqrt{C_1C_2R_1R_2}} \ [Hz] $
Ver1.0.1