直流機の構造
直流による電動機・発電機。
利点は、始動トルクが大きい。速度制御が容易で回転速度の精密な制御ができる。
欠点は、直流電源が必要。高価である。構造が複雑である。
固定子
界磁。
主磁極を作る永久磁石、電磁石の界磁鉄心と界磁巻線など。
回転子
電機子。
回転軸となり巻線を巻く電機子鉄心、鉄心に巻き電流を作るコイルの電機子巻線。
回転子の磁束は、半周ごとに電流方向が変わり交番磁界となるので、積層鉄心にして鉄損を減らしている。
整流子
回転子に設置され、電機子巻線の電流方向を一定にする役割を持つ。
ブラシ
固定子に設置され、整流子から電流を取り出す。
ブラシレス直流電動機は、回転子に永久磁石を組み入れて、電流を流さない。ブラシを無くすことで、効率の向上、保守の簡易化が図られている。
極数(p)
N極S極の1対で2極と考える。
極対数
N極S極の1対を1と考えたもの。(p/2)
直流機の電機子巻線
同じスロットにコイル辺を上下に重ねて2個ずつ入れた二層巻が一般的である。
重ね巻
電機子巻線の両コイル片を隣り合う整流子(ブラシ)に接続する方法。
回路では、数本の電機子導体が直列接続されたものが、正負のブラシ間に並列に何本か接続される。
並列回路数(a)と極数(p)とブラシの数は同じになる。
並列回路数が多いので低電圧大電流に適用される。
電機子電流:コイルの電流の並列回路分。(コイル1辺の電流×並列回路数)
電機子電圧:コイルの電圧の直列回路分。(コイル1辺の電圧=電機子1体の起電力×直列数)

波巻
電機子巻線の両コイル片を2磁極離れた整流子に接続する方法。
回路では、数本の電機子導体が直列接続されたものが、並列に2本接続される。
並列回路数が2個なので高電圧小電流に適用される。
極数に関わらず、並列回路数(a)=ブラシの数=2となる。
直流機の電機子反作用
電機子巻線の電流によって作られる磁束が、界磁巻線による主磁極の磁束に影響を与えること。
主磁束に対して電機子電流による磁束はπ/2[rad]ずれている。
電流が流れていないときの幾何学的中性軸は、電機子巻線の電流が作る磁束によりずれ、電気的中性軸となる。
発電機の場合は、横方向の主磁束に対し、電機子巻線の磁束がπ/2下方向に働き、合成磁束は回転方向の右下になるため、電気的中性軸が回転方向側に傾く。
電動機の場合は、横方向の主磁束に対し、電機子巻線の磁束がπ/2上方向に働き、合成磁束は回転方向の右上になるため、電気的中性軸が回転方向と反対側に傾く。
ブラシの位置と電気的中性軸のずれは、ブラシの位置の導体に起電力を発生させて、火花や短絡などの障害要因となる。



直流機の電機子反作用対策
補極
固定子の主極と主極の間に補磁極を置いて電機子反作用磁束を局部的に打ち消し、整流中のリアクタンス電圧を打ち消す。
電機子巻線に直列に接続する。
小型機で使用される。
補償巻線
固定子の主磁極片にスロットを設けて電機子導体と平行に巻線を施し、電機子電流と反対の電流を流すことで電機子の起磁力を打ち消す。
電機子巻線に直列に接続する。

直流機の種類
界磁回路が電機子回路と別回路となる他励式と、同回路となる自励式(分巻式・直巻式)がある。
他励式
固定子の界磁回路が、回転子の電機子回路と別回路のもの。
界磁が別回路なので、界磁磁束Φは一定で変化しない。
電動機は、負荷が変動しても、電源電圧が一定なら回転速度の変化が少ないので定速度電動機と呼ばれる。
界磁が永久磁石の直流機は、界磁磁束が変化しないので、他励式となる。
分巻式
固定子の界磁巻線と、回転子の電機子巻線が並列接続のもの。
負荷電流によって端子電圧が降下すると界磁電流が減少し、誘導起電力も小さくなるため、電圧変動率は大きくなる。
発電機は、低い電圧で発電が開始され、その後は残留磁束によって界磁電流が増加し、必要電圧まで上昇する。従って分巻方向を残留磁束と逆にすると電圧確立できない。
電動機は、負荷が変動しても、電源電圧が一定なら回転速度の変化が少ないので定速度電動機と呼ばれる。
速度制御の方法として、界磁巻線と直列に抵抗を接続し、界磁電流を調整する界磁制御法がある。
直巻式
固定子の界磁巻線と、回転子の電機子巻線が直列接続のもの。
無負荷や低負荷では、界磁電流と電機子電流が小さく、界磁磁束が小さくなって回転速度が急上昇するので、電機子巻線を破損する危険がある。
始動時のトルクが大きいのでクレーンなどに使用される。
負荷電流と界磁電流は同じなので、負荷がないと電圧確立できない。
複巻式
直巻・分巻界磁を組み合わせたもの。
無負荷電圧と全負荷電圧が等しくなる(電圧変動を0にする)ようにしたものを平複巻式という。
合成界磁が直巻・分巻界磁の和になるものを和動式、差になるものを差動式という。
直流機の等価回路
各種類の等価回路は以下のようになる。
電動機が静止状態または始動時、逆起電力EはE=0と考える。
負荷が小さいと電機子電流Iaは小さくなる。
電機子巻線や界磁巻線に直列接続された抵抗rがある場合は、ra=(ra+r)、rf=(rf+r)と考える。
他励式と分巻式では、電機子電圧とは端子電圧Vのことである。
$V$:端子電圧 [$V$]
$E$:誘導起電力 [$V$]
$I$:負荷電流 [$A$]
$V_f$:界磁巻線電圧 [$V$]
$r_a$:電機子抵抗 [$Ω$]
$r_f$:界磁抵抗 [$Ω$]
$I_a$:電機子電流 [$A$]
$I_f$:界磁電流 [$A$]
定格出力
発電機の定格出力:$P=VI [V・A]$
電動機の定格出力:$P=EI_a [W]$
他励式


$\displaystyle V=E-r_aI_a E=V-r_aI_a $
$\displaystyle I_f=\frac{V_f}{r_f} I_f=\frac{V_f}{r_f} $
$\displaystyle I_a=I I_a=I $
分巻式


$\displaystyle V=E-r_aI_a E=V-r_aI_a $
$\displaystyle I_f=\frac{V}{r_f} I_f=\frac{V}{r_f} $
$\displaystyle I_a=I+I_f I_a=I-I_f $
直巻式


$\displaystyle I_f=I_a I_f=I_a $
$\displaystyle I_a=I I_a=I $
直流電動機のトルク・回転速度特性
無負荷の時は負荷電流I=0と考える。
分巻式は負荷電流I=電機子電流Iaではないため、負荷電流I=0とはならず、I=界磁電流Ifとなる。
負荷電流が増える→電機子電流が増えると考える。




直流機のトルク特性
- 他励式:界磁電流は別電源の為、界磁磁束は一定なので、トルクは負荷電流(電機子電流)に比例して増加し、やがて飽和する。
- 分巻式:負荷電流が小さい時は界磁磁束は一定なので、トルクは負荷電流(電機子電流)に比例する。負荷が大きくなると電機子反作用によって界磁磁束が減少するため、曲線の傾きは緩やかになる。
- 直巻式:負荷電流(電機子電流)が界磁回路に流れるため、界磁磁束も負荷電流(電機子電流)に比例して大きくなり、トルク曲線は負荷電流(電機子電流)の2乗に比例する。(大きな始動トルクが必要な用途に適している)
負荷電流(電機子電流)が大きくなると磁束が飽和する為、界磁磁束が一定となり、負荷電流(電機子電流)に比例した曲線となる。 - 複巻式:直巻式と同じ。
直流機の回転速度特性
- 他励式:負荷電流(電機子電流)の増加とともに徐々に減少する。
- 分巻式:負荷電流(電機子電流)の増加とともに徐々に減少する。(誘導電動機と同じ特性)
- 直巻式:負荷電流(電機子電流)の増加に反比例して減少する。
界磁磁束も減少するのでやがて飽和し、回転速度も一定となる。 - 複巻式:分巻式と同じ。
直流機の始動抵抗
電機子抵抗raは小さいので、電動機を始動するときは、回転速度が0で逆起電力Eが生じていないため、電機子電流Iaが非常に大きくなり、電機子巻線の焼損を招く。(他励式電動機:Ia=(VーE)/ra)
これを防止する為、電機子抵抗raと直列に始動抵抗を接続することで、始動時の電流値Iaを抑える。
直流機の速度制御
直流電動機の回転速度を変える場合は、回転速度の公式(N=(VーraIa)/kΦ)より、端子電圧V、電機子抵抗ra、磁束Φを変化させればよい。
- 界磁制御法:界磁電流を変化させて、磁束Φを変える方法。
- 抵抗制御法:電機子回路に可変抵抗を直列に挿入することで、電機子抵抗raを変える方法。
- 電圧制御法:端子電圧Vを変える方法。
ワードレオナード方式(交流電動機で直流発電機を動かして電圧制御する)・静止レオナード方式(サイリスタの整流回路を使用して電圧制御する)などがある。
逆転
回転方向を変える(逆転)には、界磁の方向を逆方向にするか、端子電圧の極性を反転させて電機子電流を逆方向にすればよい。一般的に反応が速い電機子電流を逆方向にする。
ただし、直巻式の場合は端子電圧を反転させても電機子電流と界磁電流の両方が逆方向になるため、結果的に回転方向は変わらない。
直流発電機の外部特性曲線
外部特性曲線は、発電機の特性を示し、負荷電流Iを変化させたときの端子電圧Vの関係を示す。
回転速度、端子電圧、負荷電流を定格値になるよう界磁電流を調整した状態である。
他励式・分巻式は、負荷変動による回転速度の変動は少ない。
直巻式は、磁束飽和して界磁磁束が安定するまで不安定となる。


その他の直流機
スロットレスモータ
回転子の溝を無くしたもの。
スムーズに回転するため、小型の制御モータとして使用される。
一般に、電機子の溝(スロット)によるエアギャップ(回転子の固定子のすきま)の変化が磁束の脈動となり、トルクの脈動となる。従って、溝数を増やせば脈動も減る。
スロットレスモータは、永久磁石を固定子に使用して、回転子の溝を無くしてコイルを円筒状の鉄心に接着剤で固定した構造である。溝を無くすことでエアギャップを均一にしてトルクの脈動を抑えている。
ブラシレスDCモータ
回転制御の整流を半導体スイッチでおこなうもの。
同期機と同様に、固定子の電機子巻線の回転磁界に同期して、電気が不要な永久磁石の界磁が回転子となり回転する。
回転子の回転位置をセンサなどで検出して、電機子電流を変化させる。
ブラシや整流子の接触部分が無いのでモータの劣化が少ないが、センサや制御回路が複雑になる。
細かい制御が可能なので、効率が良く、近年利用が増えている。
他励電動機と同様の特性を示す。
交流整流子型電動機
電気ドリルや掃除機などに使用する電動機。
交流でも直流でも使用できるので、ユニバーサルモータと呼ばれる。
構造は、直流直巻電動機に交流電源をかけるもので、電圧の極性が反転しても、電磁石の極性も逆転して界磁・電機子電流も逆転するので、トルクの方向は一定で回転方向が同じになることを利用している。構造が複雑である。
利点としては、始動トルクが大きい、回転速度が速い、力率が良いなどがある。(直流直巻電動機の特性が得られる)
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