ランキンサイクル
ランキンサイクル は、ボイラーと蒸気タービンを使用した蒸気による熱機関である。
汽力発電では、ランキンサイクルを使用して電気を発生させている。
ボイラーで燃料を使用して蒸気を作り、タービンで蒸気を使用して発電し、復水器でタービンの排気を冷やして水に戻す。
給水ポンプ(①-②)
水を断熱圧縮する。(温度は上昇しエントロピーはそのまま)
ボイラー(②-③-④)
②ー③で、水を飽和温度まで等圧受熱する。(温度は上昇し、エントロピーも上昇する)
③ー④で、等温・等圧受熱する。(温度はそのまま(潜熱)で湿り飽和蒸気→乾き飽和蒸気になる、エントロピーは上昇する)
過熱器(④-⑤)
飽和蒸気を過熱蒸気にする。(温度は上昇し、エントロピーも上昇する)
蒸気タービン(⑤-⑥)
高圧タービンで、過熱蒸気でタービンを回し断熱膨張する。(温度は下がり、エントロピーはそのまま)
再熱器→低圧タービンで、高圧タービンで使用した蒸気を再熱器で加熱して低圧タービンで再利用する。(再熱サイクル)
復水器(⑥-①)
蒸発温度まで下がった蒸気を水に変える。(温度はそのまま(潜熱)、エントロピーは下がる、ここで熱損失となる)
T-s線図
汽力発電所のサイクル①→⑥の繰り返しを、温度-エントロピーの図で表したもの。
線で囲まれた面積Aは、仕事として使用できるエネルギーを表す。(この面積が広くなれば熱効率が上がる)
⑥-①の下の部分の面積Bは、放出されるエネルギーを表す。
上記の二つの面積の和A+Bが、投入するエネルギーとなる。
- ①-②給水ポンプ:断熱圧縮
- ②-③ボイラ:等圧受熱
- ③-④ボイラ:等温・等圧受熱
- ④-⑤過熱器:等圧受熱
- ⑤-⑥タービン:断熱膨張
- ⑥-①復水器:等圧放熱
P-V線図
汽力発電所のサイクル①→⑥の繰り返しを、圧力-体積の図で表したもの。
線で囲まれた面積は、仕事として使用できるエネルギーを表す。
- ①-②給水ポンプ:断熱圧縮
- ②-⑤ボイラ・過熱器:等圧受熱
- ⑤-⑥タービン:断熱膨張
- ⑥-①復水器:等圧放熱
汽力発電の効率
汽力発電のエネルギー
汽力発電のエネルギーのおおまかな流れは、
タービンの入力Qin=タービンの出力PT+復水器の損失QCとなる。
上記の式を1時間当たりのエネルギーに換算すると、タービンの出力[kW]を熱量値[kJ・h]に換算する場合は出力に3600秒を乗ずるので、以下のようになる。
$\displaystyle Q_{in}=3600P_T+Q_C $
燃料が保有する熱エネルギーを100%としたとき、復水器損失47%、排ガス損失11%、機械損失2%ほどで復水器の損失が最も多く、発電端出力は40%程度である。
ランキンサイクルの効率と出力
1時間当たりのランキンサイクルのエネルギーと出力の関係は以下となる。
$B$:1時間あたりの燃料消費量 [$kg/h$]
$H$:燃料発熱量 [$kJ/kg$]
$Z$:1時間あたりの蒸気・水流量 [$kg/h$]
$i_s$:ボイラ出口蒸気の比エンタルピー [$kJ/kg$]
$i_w$:ボイラ入口蒸気の比エンタルピー [$kJ/kg$]
$i_e$:タービン出口排気の比エンタルピー [$kJ/kg$]
$P_T$:タービンの機械出力 [$kW$]
$P_G$:発電機出力 [$kW$]
$P_L$:所内電力 [$kW$]
$P_S$:送電端出力 [$kW$]
発電機出力PGの地点の効率である発電端効率ηpは、ボイラのボイラ効率ηB、復水器のサイクル効率ηC、タービンのタービン効率ηT、発電機の発電効率ηGの4つで構成される。
所内電力PLとは、発電所設備自体の電力消費を表し、実際に送電される電力(送電端出力PS)は発電機出力PGから所内電力PLを引いたものとなる。
ボイラ効率(ηB)
ボイラに入力した燃料エネルギーに対する、蒸気エネルギーとして出力された比率。
ボイラ効率=ボイラで発生した蒸気熱量/ボイラに供給した燃料の発熱量
$\displaystyle η_B=\frac{Zi_s-Zi_w}{BH} $
サイクル効率(ηC)
タービンに入力した蒸気エネルギーに対する、タービンで消費したエネルギーの比率。
サイクル効率=タービンで消費した熱量/ボイラで発生した蒸気熱量
$\displaystyle η_C=\frac{Zi_s-Zi_e}{Zi_s-Zi_w}=\frac{i_s-i_e}{i_s-i_w} $
タービン効率(ηT)
タービンで消費したエネルギーに対する、タービンが回転して出力したエネルギーの比率。
タービン効率=タービンの機械出力(熱量値)/タービンで消費した熱量
$\displaystyle η_T=\frac{3600P_T}{Zi_s-Zi_e} $
タービン室効率(ηTR)
タービンに入力した蒸気エネルギーに対する、タービンが回転して出力したエネルギーの比率。
タービンの効率に復水器の損失分を加えたもの。
タービン室効率=タービンの機械出力(熱量値)/ボイラで発生した蒸気熱量
$\displaystyle η_{TR}=\frac{3600P_T}{Zi_s-Zi_w}=η_Cη_T $
発電機効率(ηG)
タービンの機械出力に対する、発電機の出力の比率。
発電機効率=発電機の出力/タービンの出力
$\displaystyle η_G=\frac{P_G}{P_T} $
所内比率(ηL)
発電機の出力に対する、発電所内で使用した電力の比率。
所内比率=所内電力/発電機の出力
$\displaystyle η_L=\frac{P_L}{P_G} $
発電端熱効率(ηP)
ボイラに入力した燃料エネルギーに対する、発電機が出力したエネルギーの比率。
発電端熱効率=発電機の出力(熱量値)/ボイラに供給した燃料の発熱量
$\displaystyle η_P=\frac{3600P_G}{BH}=η_Bη_{TR}η_G $
送電端熱効率(ηS)
ボイラに入力した燃料エネルギーに対する、発電所が送電するエネルギーの比率。
送電端熱効率=送電端出力(熱量値)/ボイラに供給した燃料の発熱量
送電端出力=発電機出力ー所内電力
$\displaystyle η_S=\frac{3600P_S}{BH}=\frac{3600P_G-3600P_L}{BH} $
熱効率(η)
ボイラに入力した燃料エネルギーに対する、タービンが回転して出力したエネルギーの比率。
熱効率=タービンの機械出力(熱量値)/ボイラに供給した燃料の発熱量
熱効率はボイラでの加熱エンタルピーに対するタービンでの消費エンタルピーで表されるので、ランキンサイクル上では、以下のエネルギー効率である。
熱効率=タービンの消費エンタルピー/ボイラの加熱エンタルピー=⑤-⑥/⑤-①
$\displaystyle η=\frac{3600P_T}{BH} $
熱消費率(j)
発電機の熱消費率は、発電機が1[kW・h]を出力するのにどれだけの熱量[kJ]を消費するかを示す率である。
熱消費率=ボイラに供給した燃料の発熱量/発電機の出力
$\displaystyle j=\frac{BH}{P_G} \ [kJ/(kW・h)] $
燃料消費率(f)
1[kW・h]を発電するのにどれだけの燃料[kg]を消費するかを示す率である。
燃料消費率=燃料消費量/発電機の出力
$\displaystyle f=\frac{B}{P_G} \ [kg/(kW・h)] $
蒸気消費率(s)
1[kW・h]を発電するのにどれだけの蒸気[kg]を消費するかを示す率である。
蒸気消費率=蒸気量/発電機の出力
$\displaystyle s=\frac{Z}{P_G} \ [kg/(kW・h)] $
熱効率の向上
熱効率を向上させる方法として以下がある。
- タービンの入口の蒸気として高温高圧の蒸気を利用する。
- 節炭器や空気予熱器を設置して、排ガスの熱を回収し、再熱再生サイクルを利用する。
- 復水器の真空度を上げ、圧力を下げて蒸気の膨張を即し、タービンの羽根車の回転力を上げ、効率を上昇させる。
- コンバインドサイクルを採用する。
汽力発電の構成
ボイラー
「ボイラーの分類」「ボイラーの構成1」「ボイラーの構成2」参照。
タービン
タービンの分類
- 衝動タービン:蒸気が直接回転羽根に当たって衝動で回転するもの。
- 反動タービン:蒸気がまず固定羽根に当たって圧力が減って速度が速くなり(ベルヌーイの定理)、その後回転羽根に当たって反動で回転するもの。
タービンの種類
- 復水タービン:タービンの蒸気を真空まで膨張させ、復水器で凝縮して水に戻し再利用するもの。大型発電用。
- 背圧タービン:タービンの蒸気を復水器を設置せずに、工場などの作業用低圧蒸気として使用するもの。
- 抽気背圧タービン:タービンから何段にも蒸気を取り出し(抽気)、異なった圧力の蒸気を工場などで使用するもの。
- 混圧タービン:圧力の異なった蒸気を同一タービンに入れて仕事をさせるもの。
- 再生タービン:タービンの膨張途中の蒸気を抽気し、その蒸気でボイラの給水を加熱するもの。(再生サイクル)
- 再熱タービン:高圧タービンの蒸気を再熱器へ導き、低圧タービンに戻すもの。(再熱サイクル)
タービンの水素冷却方式
タービンの冷却を空気ではなく水素で行う方式。
水素は密度(比重)が小さいので、風損が少なくなる。
引火防止のため密封が必要だが、密閉型になるので運転中の騒音が少なく、ごみや湿気が入りにくい。(密封油膜装置を設けて固定子軸から水素が漏れないようにしている)
水素の比熱(熱伝導率)は空気の14倍あり、熱伝達係数も1.5倍と大きいので冷却効果が向上する。
不活性ガスなので、コロナなどの化学反応が発生しにくく、絶縁物の寿命が長くなる。
絶縁力が高く酸化劣化しない。
爆発を防ぐ為、純度は90%以上に維持する。
タービンの安全装置
- 調速装置:蒸気加減弁で蒸気流量を調整して、タービンの回転速度を制御する。
- 非常調速装置:定格回転速度を超えて一定値(1.11倍)以上に上昇した場合に、タービンを停止させる。
- トリップ装置:蒸気タービンの軸受油圧が異常低下したとき、タービンを停止させる。
- ターニング装置:タービン運転後停止したときに、そのまま冷えると温度差でタービンのロータが曲がるため、ロータを低速で回転させて均一に冷やす装置。
タービン発電機(水車発電機との違い)
発電所に用いられる発電機は、一般的に同期発電機である。
以下がタービン発電機の特徴と、水車発電機との違いとなる。
- 直径が小さく横軸型で軸方向に長い。(水車発電機は直径が大きく立軸型で軸方向に短い)
- 高速で回転子は小さく円筒形である。(水車発電機は低速で回転子は大きく、極数を多くとるため突極形で軸に回転子を取り付ける)
- 電機子巻線が多い銅機械である。(水車発電機は鉄心が多い鉄機械である)
- 鉄機械は大きく高価だが、銅機械より電圧変動が少なく効率がよく安定度も高い。安定度(短絡比)は、タービン発電機で0.6~0.9、水車発電機で0.9~1.2である。
- 回転速度が高いため機械的強度が重要である。
- 水素冷却方式を採用している。
- タービン発電機、水車発電機ともに臨界速度(車軸のたわみの振動数と共鳴する回転速度)は定格速度より低い。
復水器
タービンの排気蒸気を海水によって冷却凝縮して水にする装置。
凝縮時に体積が減り真空状態が起きる。真空にすることでタービンの入口蒸気と出口蒸気の圧力差を大きくして、蒸気の流れを加速し、タービンの効率を高めている。
冷却水の温度が低くなると、真空度は高くなる。真空度が高いほどタービンの排気圧力が低くなり、凝縮する温度は低くなるので、熱効率は高くなる。火力発電所の真空度は95kPa強である。
汽力発電所の熱損失の約50%は復水器で最も高い。
一般に表面復水器(多数の管に冷却水を流して蒸気を冷却する方式)が多く用いられている。
復水器の補機として空気抽出装置(排気蒸気中の不凝縮性ガスや空気を排出する)が設置される。
再熱再生サイクル
汽力発電所で最も用いられている熱サイクルで、ランキンサイクル+再生サイクル+再熱サイクルを組み合わせたもの。
- 再生サイクル:タービンからの蒸気の一部をボイラへの給水の加熱に利用する。
- 再熱サイクル:高圧タービンで使用した蒸気を再熱器(ボイラではない)で加熱して低圧タービンで再利用する。
再熱器
熱効率向上のため、一度高圧タービンで仕事をした蒸気をボイラに戻して加熱するためのものである。
加熱した蒸気は低圧タービンで利用する。
コンバインドサイクル発電(CC発電)
コンバインドサイクルの仕組み
ガスタービンと蒸気タービンを合わせた発電方式。(発電機が二つある)
空気はガスタービンと直結された空気圧縮機で圧縮され、温度を上げてから燃焼器で燃焼しガスタービンを回す。
ガスタービンの排ガスは、空気予熱器の代わりに、蒸気タービン側の排熱回収ボイラーへ流れ、蒸気タービンの水を温めて排気される。排熱回収ボイラーで温められた蒸気で、蒸気タービンを回す。
コンバインドサイクルの特徴
ガスタービンの使用で、起動停止時間が速い。
ユニットによる運転台数の増減が可能で、部分負荷に対応できるので熱効率の低下が少ない。
空気圧縮機の空気量が外気温度で変わるため、夏場は出力が減少する。圧縮空気を使用するので排ガス量は多い。
蒸気タービンの負担が少ないので、復水器の冷却水量、温排水量は少ない。
通風や環境対策用の補機が少ないので、所内比率は2.5%程度で小さい。
ガスタービンの効率を向上するには、圧縮機の出口と入口の圧力比を高めたり、タービンの入口温度を高くする。
総合熱効率は、火力発電の40%台に比べ60%と高い。
総合熱効率ηは、ガスタービン効率ηGとガスタービン後の熱量に対する蒸気タービン効率ηSを加えたものとなる。
η=ηG+(1-ηG)ηS
<画像出典:国立環境研究所>
汽力発電の環境対策
「燃焼による汚染」参照。
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