原子力発電

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原子力発電の原理

汽力発電がボイラーで化石燃料を使って蒸気を得るのに対し、原子力発電は原子炉でウラン235濃縮燃料を使用して、核分裂により発生するエネルギーで蒸気を得る。
蒸気を使用してタービンで発電する原理は同じである。

原子

原子は、原子核(陽子と中性子)の周りを電子が回るような構成となっている。
原子番号Zの原子は、Z個の陽子とN個の中性子が結合した原子核の周りを、Z個の電子が回っていると考える。
質量数A=陽子数Z+中性子数N
原子核を陽子と中性子に分解させるためのエネルギーを結合エネルギーという。

原子力のエネルギー

ウラン235に中性子1個が衝突すると、ストロンチウムとキセノンなどに核分裂し、中性子2~3個を放出する。
このときウラン235と核分裂生成物の質量差(質量欠損)に相当するエネルギーが放出される。ウラン235の質量の0.09%である。
ウランの核分裂で発生した中性子は、高エネルギーで高速なため高速中性子と呼ばれる。
高速中性子は速度が速すぎるため、他の原子に衝突しにくく、核分裂連鎖反応の持続が難しい。
高速中性子を減速棒によって速度を落として熱中性子にして、他の原子核に衝突させて連鎖反応を起こし、連続したエネルギーを得ている。
ウラン235を1g核分裂させたときのエネルギーは、石炭数トンの発熱量に相当する。
ウランの質量のエネルギーE[J]は、以下の式で表される。
質量欠損分を考慮すると、ウランの質量[kg]に質量欠損の0.09[%]=0.09×10-2を乗じたものをmに代入する。

$\displaystyle E=mc^2 \ [J] $

$E$:質量エネルギー [$J$]
$m$:質量(質量欠損分) [$kg$]
$c$:光速($3×10^8$) [$m/s$]

核燃料

天然ウランには、ウラン235は0.7%程度しか含まれておらず、残りはウラン238である。
軽水炉で使用する燃料は、ウラン235を約3~5%程度まで濃縮した低濃縮ウランである。
ウラン235の濃縮は、ウラン238とのわずかな質量差(化学的性質の差ではない)を使用して作られ、ウラン燃料は、二酸化ウラン(UO2)の形で粉末をペレット上に焼き固めたものが使用される。

ウラン235

中性子を吸収して核分裂し、連鎖反応を持続できる核分裂性物質。

ウラン238

熱中性子以下を吸収しても核分裂しない。(高速中性子以上であれば核分裂する)
自身は核分裂しないが、中性子を吸収すると核分裂性物質に変わる。親物質と呼ばれる。
中性子を吸収するとプルトニウム239に変化する。
原子力発電の燃料の95%を占め、残りがウラン235である。

プルトニウム239

ウラン238から作られる核分裂性物質の高濃縮ウラン。
自然界には存在しない。
高速増殖炉で燃料として使用する。

プルサーマル

使用済み燃料から再処理によって、残ったウランや生じたプルトニウムを取り出し、再びMOX燃料(リサイクルして作られた原発の燃料)として使用することプルサーマルという。

原子炉の種類

沸騰水型軽水炉(BWR)

冷却材(軽水)を原子炉内で直接加熱し、蒸気を発生させてタービンに送気する。
炉心で蒸気を生成するので、蒸気発生器は無い。圧力容器内部に気水分離器・乾燥器がある。
構成は簡単である。大型となるので出力密度は小さい。
タービンも直接、冷却材(軽水)が触れるため、遮蔽が必要である。
出力の調整は、再循環ポンプで炉心内の冷却材(軽水)の流量を変えることで行う。
熱中性子炉(熱中性子の核分裂による原子炉)である。

加圧水型軽水炉(PWR)

一次冷却材(軽水)を原子炉内で加熱した熱水を用いて、別系統の蒸気発生器を加熱して二次冷却材(軽水)の蒸気をタービンに送気する。(炉心で蒸気は生成しない)
タービンに直接、一次冷却材(軽水)が触れないので、遮蔽が不要である。
原子炉の加熱した一次冷却材(軽水)が沸騰して気化するのを防ぐため、加圧器で加圧して沸点を上げている。
出力の調整は、一次冷却材(軽水)に混ぜるほう素濃度で行う。
熱中性子炉(熱中性子の核分裂による原子炉)である。

高速増殖炉

発電しながら消費した以上の燃料を生成できる原子炉。
劣化ウラン(ウラン235の含有率が低くなったもの)のウラン238がプルトニウム239に変わり燃料となる。
プルトニウム239(高濃縮ウラン)を高速中性子で核分裂させるので、熱中性子のみを使用する軽水炉よりもウランの利用効率が高い。
高速炉(高速中性子の核分裂による原子炉)である。

原子炉の出力制御

原子炉の構成

減速材

核分裂によって生じた高速中性子を、他の原子核に吸収されやすいように速度を遅くして熱中性子まで減速させるもの。
減速材は、中性子の吸収が少なく(数を減らさない)、放射線に対して安定でなければならない。

冷却材

原子炉中で核分裂によって発生した熱を外部に取り出すもの。

制御材(制御棒)

原子炉の中性子を吸収して減らし、熱中性子が燃料に衝突する割合を制御して出力を調整するもの。
カドミウム、ホウ素など。
制御棒を引き抜くと出力は上昇し、挿入すると出力は低下する。
制御棒は、加圧水型軽水炉(PWR)は炉心の上部から挿入する。沸騰水型軽水炉(BWR)は、炉心上部に気水分離器と乾燥器が設置されているため、炉心の下部から挿入する。

原子炉の形式による分類

軽水は普通の水で、重水は質量が重い重水素の入った水のことである。

  • 軽水炉:軽水(減速材)、軽水(冷却材)
  • 重水炉:重水(減速材)、軽水・重水(冷却材)
  • ガス冷却炉:黒鉛(減速材)、二酸化炭素(冷却材)
  • 高温ガス炉:黒鉛(減速材)、ヘリウム(冷却材)
  • 高速増殖炉:なし(減速材)、ナトリウム(冷却材)

原子炉の安全性効果

ドップラー効果

軽水炉の固有の安全性の一つ。
ウラン238がウラン235より高速の中性子を吸収しやすい性質を利用して、ウラン235の核分裂の制御をおこなうもの。
水の温度が下がると、密度が上がって中性子が減速する→238の中性子吸収が減り、核分裂が増える→温度が上がる
水の温度が上がると、密度が下がって中性子が加速する→238の中性子吸収が増え、核分裂が減る→温度が下がる

ボイド効果

軽水炉の固有の安全性の一つ。
核分裂が増加して出力が増加すると、水の温度が上がり、密度が下がって蒸気泡(ボイド)が発生する。
これは減速材の減速能力を小さくさせるので、核分裂に寄与する熱中性子が減少し、核分裂が抑制され出力も低下する。

原子力発電と火力発電の違い

原子力発電の蒸気は、飽和蒸気(火力発電では過熱蒸気)を使用するため、圧力・温度ともに低い。
熱効率は火力発電に比べて10%程度悪い。このため蒸気量を多くする必要がある。
タービンは高圧と低圧の二つで構成され、高圧タービンから低圧タービンへの排気は、湿分分離器で湿分を除去している。
蒸気中の水滴が翼に当たって浸食するのを防ぐ為、低圧タービンの翼は大きく、回転速度も1500~1800min-1程度で火力発電に比べて半分ほど低い。


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