非常用電源

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非常用電源の定義

  • 保安電源:業務継続用。(電気設備技術基準)
  • 非常電源:消火栓、スプリンクラー、排煙設備など。(消防法)
  • 予備電源:非常用照明、排煙機など。(建築基準法)

消防法の規定

定格負荷で60分以上連続運転できること。
燃料は2時間以上の容量を持つこと。
エンジン始動から40秒以内に電圧確立すること。
燃料となる危険物が指定数量以上の場合、危険物取扱所の許可施設となり届出が必要である。
(指定数量の1/5以上、指定数量未満の場合は、少量危険物設置届の提出が必要となる)
(指定数量は、ガソリン:200L、軽油・灯油:1000L、重油:2000L)

原動機設備

発電用の動力を発生する装置。
原動機の軸に発電機を直結して発電する。

カルノーサイクル

熱エネルギーを動力に変換する熱機関の理論サイクル。
①→②等温膨張、②→③断熱膨張、③→④等温圧縮、④→①断熱圧縮の4過程を繰り返す。

T-s線図
P-V線図

カルノーサイクルは最大効率となる理論値であり、等温で圧縮・膨張するには無限の時間がかかるため実現は不可能である。
実際の熱機関では、ディーゼルサイクル(ディーゼルエンジン)や、ブレイトンサイクル(ガスタービンエンジン)が使用される。

エンジンの種類

ディーゼルエンジン

断続的な燃焼による爆発ガスの熱エネルギーを、ピストン往復運動に変換し、クランク軸によって回転運動に変換するという機構で運転を行う。
動作工程は、吸入→圧縮→爆発→排気である。
圧縮高温による自然発火なので爆発に点火装置は必要ない。
冷却方式としてラジエーター方式が多い。
利点:安価である。非常用予備発電装置として一般的に使用される。
欠点:運転時の振動や騒音が大きい。潤滑油消費量が多い。軽負荷運転の効率が悪い。

<画像出典:国立科学博物館>

ガスタービンエンジン

空気を遠心圧縮機で圧縮し、この圧縮した空気を燃焼器に導いて燃料を連続的に燃焼させて高温・高圧のガスを発生させる。
このガスをタービン(円板に多数の翼を付けた翼車)で膨張させて得られる回転エネルギーによって、前段の圧縮機をまわすとともに、残りのエネルギーを出力軸で取り出す。
利点:空冷式のため冷却水が不要である。省スペースである。黒煙が少なく、振動や騒音が小さい。
欠点:高価である。吸気・排気量が多いので設置場所の制約がある。燃料消費量が多い。

<画像出典:日本ガスタービン学会>

エンジンの始動方法

  • 電気始動方式:直流セルモータを蓄電池で回転させる。蓄電気設備を使用する。
  • 空気始動方式:圧縮空気でエアモータを回転させる。直接ピストンを押す。空気圧縮機、圧縮空気槽を使用する。

原動機の燃料

燃料の種類

各燃料の指定数量、引火温度、発火温度は以下のようになる。

  • A重油:第3石油類(2000L、60~100℃、250~380℃)
  • 軽油:第2石油類(1000L、45~70℃、250℃)
  • 灯油:第2石油類(1000L、40~60℃、255℃)
  • ガソリン:第1石油類(200L、ー40℃、300℃)

燃料消費量

ガスタービンエンジンは、ディーゼルエンジンよりも燃料消費率が高く、2~2.5倍の消費量となる。
燃料必要量の計算式は以下で表される。
O=(b×E×H)/w
(O:燃料必要量[L]、b:燃料消費率[g/(kW・h)]、E:原動機出力[kW]、H:運転時間[h]、w:燃料密度[g/L])
燃料密度w:A重油の場合850[g/L]
燃料消費率bは、各メーカーのディーゼル発電機、ガスタービン発電機で異なる。

燃料供給装置

燃料タンクから移送ポンプを使って小出槽を経て原動機に供給される。

  • 燃料タンク:原動機運転用の燃料タンク。
  • 燃料移送ポンプ:燃料タンクから燃料小出槽へ燃料を移送するポンプ。
  • 燃料小出槽:大容量の燃料がある場合、いったん主燃料タンクから燃料小出槽に燃料を移送し、小出槽から送油管を通して原動機に送油する。
    主燃料タンクと小出槽は、オーバーフローできない為、給油管と返油管の2本で接続されている。

原動機の冷却

エンジンを冷却する。

冷却方式

  • ラジエーター方式:冷却水(クーラント不凍液)をラジエーターを介して循環しエンジンを冷却する。ラジエーターでは冷却に水を用いず風を用いて冷却する。
  • 流下方式:使い捨ての冷却水を用いて冷却する。
  • クーリングタワー方式:クーリングタワーを屋外に設置して、使用済み冷却水を再利用する。
  • 自己空冷式:高温部の冷却に圧縮機出口空気を使用する。ガスタービンで使用される。

クーラー装置

  • オイルクーラー:潤滑油や作動油といったオイルを冷却する。
  • インタークーラー:過給器付きの内燃機関では圧縮されて発熱した吸入空気を冷却する。

ターニング運転

ガスタービン内の温度分布が不均一のまま冷却されると、軸にたわみが生じる。
これを防ぐため、運転停止後冷却するまでゆるやかに回転させ、温度分布を均一にする。

発電機設備

発電機の有効電力の算定では、エンジン発電機としての出力を設定する場合、単相発電機では力率を1、三相交流発電機では0.8と設定するのが一般的である。

ブラシレス同期発電機

回転子の軸と固定子間がすべてブラシとスリップリング無しに構成される同期発電機。
発電機側は、回転界磁形発電機である。
回転子にブラシレスで直流が供給され界磁され、固定子から電気を得る。
回転子に供給する直流は、交流励磁機で発電された交流電源を、回転子上の整流器によって直流に変換したものである。
交流励磁機は、発電機の界磁用に使用する回転電機子形同期発電機で、固定子に直流の界磁電流を流し、回転子から発電した交流を得る。
交流励磁機の界磁を調整すれば、発電機への界磁電流が変化し、発電電圧を調整することができる。
回転子上には副励磁機として、回転子に永久磁石を有したPMG(永久磁石発電機)が付いているものもあり、副励磁機の固定子で発電された交流電流は直流に整流され、交流励磁機の固定子に界磁電流を供給する。

発電機の制御

制御盤

  • 自動始動盤:不足電圧継電器の動作により、発電機の自動始動・自動停止を行う盤。
  • 発電機盤:発電電力を負荷に供給するための盤。
    自動電圧調整器を有し、負荷変動による電圧変動を3.5%以内に収める。
  • 同期盤:複数台の発電機を並列運転する場合に、電圧・周波数・位相が一致しているかを同期検定器によって確認して投入する盤。同期検定器を見ながら電圧や速度を調節して手動で投入するものと、これらの操作を自動で行うものがある。

非常用発電機シーケンス例

  1. 停電確認。(試験モードの起動信号も停電信号と同様)
  2. 始動指令。(停電確認から2秒でスターター起動)
  3. 回転速度55%。(スターターによる起動正常の確認)
  4. 電圧確立。
  5. 遮断器投入。(1~5までは40秒以内)
  6. 復電確認。(試験モードの停止信号も復電信号と同様)
  7. 遮断器切。(復電確認から180秒)
  8. 停止指令。
  9. 無負荷冷却運転。(300秒)
  10. エンジン停止。
  11. ターニング運転。(タービンエンジンの場合)

蓄電池

蓄電池の容量と性能

蓄電池の容量は、放電電流[A]と放電時間[h]の積で示す。アンペアアワー[Ah]である。
蓄電池の性能は、何時間使用できるかの時間率で示す。アワーレート[HR]である。
蓄電池は、大きな電流を短時間で出力するより、小さな電流を長時間で出力した方が多くの電流を出力できるため、性能評価の値として[HR]を表記している。

40Ah(5HR)は、蓄えられる電気量が40Ah、8Aを5時間出力できる性能を意味する。
40Ah(20HR)は、蓄えられる電気量が40Ah、2Aを20時間出力できる性能を意味する。
容量はどちらも40Ahだが、同じ負荷電流で使用した場合、5HRの方が性能(出力できる容量)は高い。

蓄電池の充電方法

  • 浮動充電:充電装置を浮動受電電圧にして、蓄電池の自己放電電流分の微小電流の充電を常時行う。
  • 回復充電:充電装置の電圧を高くして、急速に完全充電状態に回復させる。
  • 均等充電:長時間の浮動充電によるセル間の電圧のばらつきをなくすため、充電装置の電圧を高くして、各セルを均一に充電する。

サーマルランナウエイ現象

劣化や周囲温度の高さによって蓄電池内部で発熱し、起電力が低下(アルカリ蓄電池の起電力は負の温度係数を持つ)して充電電流が増加する悪循環を繰り返し、電解液が沸騰して蓄電池を破壊してしまう現象。
対策としては、蓄電池の過充電の可能性があるため、均等充電の時間を短くする。浮動充電電圧を低くする。蓄電池箱内を冷却ファンなどで冷やすなどがある。

蓄蓄電池の内部抵抗測定

劣化が進むと内部抵抗値は初期の値より増加していくため、電池の内部抵抗を測定することで性能評価を行う。

  • 直流法:放電開始直後、放電停止直後の電圧変化と電流から抵抗値を求める。
  • 交流法:交流信号を電池に印加したときの電流と電圧変化からインピーダンスを求める。

UPS装置

停電や瞬時電圧低下時などに、情報機器などの負荷に電力供給を停止させないための補償装置。
交流電源を整流器で直流に変換し、蓄電池に充電しながら、CVCF装置(インバータ)のPWM制御によって定電圧・定周波数の交流を供給する。
停電すると、蓄電池より連続して給電できる。
コンピュータや通信機器などの電源に使用される。
UPSの容量の算出で力率不明の場合は、皮相電力[VA]なら力率0.6、有効電力[W]なら力率1.0として計算し、それを上回る容量とする。

給電方式

常時商用給電方式

通常時は商用電源で、停電時に切換スイッチでインバータ側に切り換える。

常時インバータ給電方式

常時インバータ側の電源を給電する。
定常時は、本線入力→整流器→インバータ→出力で安定した電源を供給する。
停電時は、蓄電池→インバータ→出力で電源を供給する。
故障時は、無瞬断でバイパス回路に切り替わり、負荷に電源を供給する。
常時インバータ方式のUPSは、負荷側の電源品質を安定させることが可能で、CVCF(定電圧定周波数)と同等の機能を有している。
出力は、バイパス回路の商用電源と位相同期を取っている。(商用同期)

UPS装置の機能

CVCF(Constant Voltaqe Constant Frequency)

定電圧・定周波数の安定した交流電源を供給するための装置。

浮動充電方式

整流器に対して負荷と蓄電池を並列に接続し、負荷と同じ一定電圧を連続的に印加して負荷を運転させつつ蓄電池を充電する方式。
停電時には無瞬断で蓄電池から負荷へ給電できる。
浮動充電は長時間続けると、各電池の電圧にばらつきが出るため、定期的に整流器の出力電圧を定格電圧より高くして充電する均等充電を行う。

商用同期

商用電源と同期(位相を合わせる)した出力電源を供給する。
インバータの機能が完全に失われた場合に、バイパス回路の商用電源に無瞬断で切り替えることが可能である。


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