進相コンデンサ(SC)
調相設備とは、電圧の調整と力率の改善を行うための設備である。
需要家では、進相コンデンサと直列リアクトルで構成される進相コンデンサ設備が負荷に並列に接続される。電力用コンデンサとも呼ばれる。(内線規程・高圧受電設備規程で、直列リアクトルの設置が義務化されている)
負荷設備に電力が供給された場合の遅れ無効電力を、コンデンサの進み無効電力で打ち消し、電力損失(電圧降下)を改善する。(力率を改善する)
一般に進相コンデンサ設備の定格容量とは、進相コンデンサと直列リアクトルを合わせたもので、定格電圧及び定格周波数での無効電力を示す。
遅れ無効電力は、誘導電動機や蛍光灯で発生する。
力率(cosθ)
交流電力の効率に関して定義された値で、皮相電力に対する有効電力の割合のこと。
力率を改善(100%に近づける)すると、電気基本料金が割引される。85%を超えると85%からの改善分基本料金が低減される。85%未満になると未達分の割増になる
進相コンデンサ設備の構成
- コンデンサ:誘電率が高いほど容量が大きくできる。誘電正接が小さいほど熱の発生損失が抑えられ、絶縁耐力が高いほど高電圧に耐えることができる。
- 充填材:油入コンデンサ(鉱物油)、ガス封入式コンデンサ(SF6ガス)を使用する。
- 直列リアクトル:コンデンサによる高調波電流の系統への流出を抑え、コンデンサ投入時の突入電流を抑制する。
- 放電装置:電源をOFFにした時に、コンデンサを放電させるための装置。
放電抵抗、放電コイルなど。 - 自動力率調整装置(APFC)(55):進相コンデンサの投入量を自動的に制御し、力率の調整を行う機器。使用する場合は、コンデンサの投入と遮断が頻繁に繰り返されるハンチング現象に対する配慮が必要である。
進相コンデンサの設置
配電線上流側ではなく、負荷に近い位置に並列に接続すると効果が高い。
高周波抑制効果からも低圧側に接続する低圧用コンデンサが主流になっている。但し負荷の数が多い場合は、経済的観点から母線設置の高圧用コンデンサを使用する。
接続方法として、常時接続され自動解放はしないものと、並列に何個か接続されていて、手動又は自動制御装置によって投入・解放するものがある。
高圧の進相コンデンサは接地可能なY結線、低圧はΔ結線が一般的である。
再投入時の注意
進相コンデンサの再投入時の注意事項として、開放後、以下の種類によって放電時間を待ってから再投入しないと過電圧が発生する。
自動制御によってコンデンサが再投入されるような場合は、放電コイルを設置する。
- 放電抵抗:5分で50V以下となる。(装置内に内蔵しているものが多い)
- 放電コイル:5秒で50V以下となる。(別途設置が必要)
コンデンサの障害検出
コンデンサのケースの膨張でアームスイッチの接点が閉じ、故障を検出する。
日常点検では、目視による油漏れや変形などを点検する。
特別点検では、静電容量・損失の測定、耐電圧試験などを行う。
コンデンサ容量の算定
進相コンデンサの接続による改善後の力率は95%位までにするのが効果的とされ、高圧側に設ける場合は三相変圧器容量の1/3程度にする場合が多い。
力率を改善する場合のコンデンサ容量
負荷P1が一定で力率改善のために進相コンデンサQを挿入する。
改善前:力率cosθ1、負荷P1[kW]、無効電力Q1[var]、容量S1[VA]
改前後:力率cosθ2、負荷P1[kW]、無効電力Q2[var]、容量S2[VA]
進相設備に直列リアクトルがある場合は、進相コンデンサの6%の直列リアクトル分が遅れ無効電力として使用されている。
従って、進相コンデンサ自体の容量は、直列リアクトル分を追加したものとなる。
$\displaystyle cosθ_1=\frac{P_1}{S_1} cosθ_2=\frac{P_1}{S_2} $
$\displaystyle Q_1=P_1tanθ_1=\sqrt{{S_1}^2-{P_1}^2} $
$\displaystyle Q_2=P_1tanθ_2=\sqrt{{S_2}^2-{P_1}^2} $
$\displaystyle Q=Q_1-Q_2=P_1(tanθ_1-tanθ_2) $
力率改善による負荷の余裕電力
容量S[VA]で、力率をcosθ1→cosθ2に改善した時の、増加できる負荷ΔP[kW]
$\displaystyle ΔP=S(cosθ_2-cosθ_1) $
複数の負荷接続時の力率
複数の負荷の総合力率を求めるには、各負荷Pの電力のベクトル図を加算していき、最終的な三角形のcosθを求める。
P1、P2cosθ2、P3cosθ3の合成総合力率。
$\displaystyle P=P_1+P_2+P_3 $
$\displaystyle Q=P_2tanθ_2+P_3tanθ_3 $
供給能力を超えた場合に追加するコンデンサ容量
負荷P1に負荷P2が増設され、合計の容量S’が変圧器の供給能力S1を超えた場合に、負荷にコンデンサQを並列接続して無効電力を減少させることで、元の供給能力S1にする。
増設前:負荷P1[kW]、無効電力Q1[var]、容量S1[VA]
増設後:負荷P1+P2[kW]、無効電力Q1+Q2[var]、容量S’[VA]
容量S’[VA]=容量S1[VA]になるように進相コンデンサQを挿入する。
$\displaystyle Q_1=P_1tanθ_1 Q_2=P_2tanθ_2 $
$\displaystyle Q_3=\sqrt{{S_1}^2-(P_1+P_2)^2} $
$\displaystyle Q=(Q_1+Q_2)-Q_3 $
直列リアクトル(SR)
進相コンデンサに直列に接続するコイル。
進相コンデンサは、負荷設備で発生した高調波を増大させる特性があるため、直列コンデンサを挿入して回路を誘導性にすることで、高調波の拡大を防止し電圧のひずみを改善する。
また、コンデンサ投入時の突入電流を抑え、異常電圧の発生を抑える。
基本波に対しては進相コンデンサ(容量性)、第5高調波に対しては直列リアクトル(誘導性)で対応する。
進相コンデンサのパーセントインピーダンス%ZCを100%として、直列リアクトルのパーセントインピーダンス%ZLが6%のとき、各電圧の比率は以下のようになる。
低圧LCユニット
直列リアクトルとコンデンサを一体とした構造で、低圧電路側に設置する進相装置。
高調波の発生源がある場合、高圧側に直列リアクトルを設ける場合に比べて、低圧側にコンデンサと直列リアクトルを設ける方が高調波吸収効果が高くなる。
第5高調波と直列リアクトル
調相設備(直列リアクトル+進相コンデンサ)における高調波の影響を考える。
電流の数%が第n調波となり、その時のインピーダンスはnの数式で求まる。
例えば第5調波の影響を抑える場合、
コイルXL=2πfLは、周波数に比例するので、インピーダンスは5倍になる。
コンデンサXC=1/2πfCは、周波数に反比例するので、インピーダンスは1/5になる。
$\displaystyle 5X_L=\frac{1}{5}X_C → X_L=0.04X_C $
XLがXCの4%の場合、インピーダンスは相殺され共振状態となり、過電流が流れ危険である。
XLがXCの4%超えれば、直列リアクトル+進相コンデンサの回路は誘導性となることが分かる。
一般的には、余裕をみて進相コンデンサの6%の直列リアクトルを入れている。
直列リアクトルの選定
JIS規格(リアクタンス6%)
第5高調波含有率35%以内で最大許容電流が定格電流の120%(許容電流種別Ⅰ:特別高圧)
第5高調波含有率55%以内で最大許容電流が定格電流の130%(許容電流種別Ⅱ:高圧)
第5高調波と調相設備の等価回路
以下のような調相設備では、高調波電流の発生源を定電流源とする並列の等価回路を作成できる。
負荷で発生する第5高調波電流I5、コンデンサ設備への第5高調波電流ISC、配電系統へ流出する第5高調波電流ISとすると、以下のような関係となる。
送配電線路の調相・電圧調整設備
無効電力調整設備
分路リアクトル
電力系統の静電容量の増加に伴う電圧上昇を抑制するため、遅れ無効電力を供給する設備。
(フェランチ効果などの電圧上昇に有効で、電圧降下には使用できない)
負荷変動によって投入したり切り離したりして電圧調整する。(負荷が少ないときに投入する)
同期調相機(励磁制御)
無負荷で運転される同期電動機で、界磁電流を調整することでコンデンサまたはリアクトルとして作用し、無効電力の調整を行う。
同様に同期発電機での励磁制御によって電圧調整も行うことができる。
静止形無効電力補償装置(SVC)
無効電力の流れを調整して電圧を一定に保つ調相設備。
電圧変動や安定度の高度な制御が要求される発電所や変電所で採用される。
進相コンデンサと分路リアクトルを組み合わせて、半導体スイッチ(サイリスタなど)で高速制御し、無効電力を調整する。
一般的に進相コンデンサ(進み無効電力)と共に負荷と並列接続する。
産業用途では、電圧フリッカ(瞬時電圧変動)対策装置としても使用できる。
サイリスタ制御リアクトル方式(TCR)は、サイリスタ装置に直列接続されたコイルのリアクトル電流の位相を変化させることで遅れ無効電力を調整している。
電圧調整設備
負荷時タップ切換変圧器(LRT)
負荷を切らないままタップ切換を行って、電圧を調整する変圧器。
変電所の主変圧器として使用される。(柱上変圧器には設置されていない)
電源電圧や負荷の変動によって、変圧器二次側の電圧が規定値にならない場合に、電圧変化の比較的少ない変圧器一次側に負荷時タップ切換器(LTC)を設けて、変圧比を切り替えて電圧を調整する。(無効電力の調整ではない)
タップ切り換えの途中では電圧の異なる二つのタップが一時的に橋絡(短絡)され、その間に循環電流(短絡電流)が流れる。抵抗やリアクタンスを設けて循環電流を低減している。
直接式:一次側の巻線回路に直接タップ切換器が接続されている。
間接式:一次側の回路に直列変圧器があり、その励磁巻線回路にタップ切換器が接続されている。
負荷時電圧調整器(LRA)
主変圧器とは別に電圧調整用の変圧器を直列接続し、電圧調整用の変圧器を負荷時タップ切換器(LTC)でタップ切換することで、間接的に電圧の調整を行う装置。
高圧自動電圧調整器(SVR)
高圧架空配電線の電圧降下対策として、配電線路の途中に直列に設置する。
自動でタップ切換えを行うことで電圧を調整する変圧器。
その他の電圧調整方法
- 電線の太線化によって抵抗を減らすことで電圧降下を減らす。
- 配電線に昇圧器を設置する。
- 負荷の別系統への切換えにより適正電圧にする。
- 柱上変圧器のタップ切替や、設置位置の変更によって適性電圧にする。
- 進相コンデンサ(電力用コンデンサ)による力率調整で電圧を調整する。
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