電線の電圧降下
配線方式と電圧降下
電線の抵抗Rによって負荷の端子電圧が電源電圧よりも低下してしまうこと。
屋内配線では、リアクタンス分は抵抗分に比べて非常に小さいため無視している。
送配電線では、リアクタンス分も考慮して計算する。
電圧降下率
配線中に発生する電圧降下の受電電圧に対する割合。
低圧は、幹線及び分岐回路において、それぞれ2%以下とすること。従って合計で4%以下となる。
電気使用場所内の変圧器により供給される場合の幹線の電圧降下は3%以下とすることができるので、
高圧受電している建物では、幹線3%+分岐回路2%で合計5%以下となる。
単相2線式(屋内配線)
往復2本の線に電流が流れる分の電圧降下を表す。
電圧降下 $\displaystyle v=2RI \ [V] $
単相3線式(屋内配線)
平衡負荷で中性線は0と考えて、中性線と電圧側電線間の電圧降下(片側)を表す。
電圧降下 $\displaystyle v=RI \ [V] $
三相3線式(屋内配線)
3本の線に電流が流れる分の電圧降下を表す。
電圧降下 $\displaystyle v=\sqrt{3}RI \ [V] $
送配電線の電圧降下の近似式
送電線の抵抗R、送電線のインダクタンスと対地静電容量を送電線のリアクタンスX、負荷の力率θ(遅れ力率)とすると、電圧降下は以下のような等価回路とベクトル図になる。


ベクトル図の作成と近似式
- 受電端電圧Erを基準として、水平方向にErのベクトルを描く。
- 負荷は誘導性(遅れ力率)が一般的であるので、Erに対して負荷電流Iのベクトルをθ遅れ方向に描く。
- Erの先端より、Iと平行に線路抵抗Rによる電圧降下IRのベクトルを描く。(IとIRは同相)
- 誘導リアクタンスXは、抵抗Rに対して直列なので位相は90°進みなので、IRの先端より、90°進み方向に誘導リアクタンスXによる電圧降下IXのベクトルを描く。
- 受電端電圧ErにIRとIXのベクトルを加えたものが送電端電圧Esのベクトルになる。
上記のベクトル図より、以下の式が成り立つ。
$\displaystyle \dot{E_s}=E_r+(IRcosθ+IXsinθ)+j(IXcosθ-IRsinθ) $
送電線が短く、送電端と受電端の相差角(電圧位相差)δが小さいと考え、虚数部分は無視すると、各配線方式での近似式は以下のようになる。
1線分の電圧降下 $\displaystyle v=E_s-E_r=I(Rcosθ+Xsinθ) \ [V] $
単相2線式の電圧降下 $\displaystyle v=2I(Rcosθ+Xsinθ) \ [V] $
三相3線式の電圧降下 $\displaystyle v=\sqrt{3}I(Rcosθ+Xsinθ) \ [V] $
$E_s$:送電端電圧 [$V$]
$E_r$:受電端電圧 [$V$]
$I$:線電流 [$A$]
$R$:抵抗(電線1線あたり) [$Ω$]
$X$:リアクタンス(電線1線あたり) [$Ω$]
$Rcosθ+Xsinθ$:等価抵抗 [$Ω$]
進み力率の場合
フェランチ効果などで、負荷が遅れ力率となる場合は、送電線(遅れ力率)と同様にベクトル図を作成すると以下のようになる。
受電端電圧Erは、送電端電圧Esよりも大きくなる。

ループ回路の電圧降下
送配電線等のループ回路における電圧降下を計算する場合。
線路の長さから各線路間の抵抗を求める。
1線路間を流れる電流Iを仮決めして、キルヒホッフの第2法則を使用して、ループ内の電圧降下の和=0の式を作り、電流Iを求める。
求めた電流Iより指定区間の電圧降下を求める。
電流Iを求める場合は、キルヒホッフの第1法則を使用して、分岐点の電流の式を作りループ内の電圧降下の和=0の式に代入して求める。
例
下図の単相2線式1回線の配電線路で、供給点Aにおける線間電圧は105V、すべて力率100%の負荷が接続されている。回線1線当たりの抵抗はAK間0.05Ω、KL間0.04Ω、LM間0.07Ω、MN間0.05Ω、NA間0.04Ωで、線路のリアクタンスは無視する。M点の電圧を求める。

- 電流をA→K→L→M→N→Aと仮決めして、LM間の電流Iを基準とすると各電流は以下のようになる。
IAK=I+(30+10)
IKL=I+10
IMN=Iー40
INA=Iー(40+20)
それぞれの抵抗値より、ループ内の電圧降下の和=0の式を作る。
0.05(I+40)+0.04(I+10)+0.07I+0.05(Iー40)+0.04(Iー60)=0
I=8A - A点が105Vなので、A→K→L→Mまでの電圧降下を引いてM点の電圧を求める。
単相2線式1回線なので、電圧降下はv=2RIであることに注意する。
105ー2(0.05×48)ー2(0.04×18)ー2(0.07×8)=97.64V
配電線路の電圧変化
負荷の大小により電圧の変化が発生するため、電源側の電圧を調整して、需要家へ提供する電圧値を一定に保たなければならない。
電圧調整として調相設備や電圧調整器を使用している。
「送配電線路の調相・電圧調整設備」参照。
フェランチ効果
受電端電圧>送電端電圧となる逆転現象のこと。
配電線では需要家の負荷に対応して配電用変電所の二次側母線電圧を調整している。通常は送電線路の抵抗によって受電端電圧<送電端電圧となる。
需要家の負荷は主に誘導性(遅れ)であり、その遅れ電流を改善するために進相コンデンサが接続されている。ただ、深夜など需要家の負荷が減少したときに、進相コンデンサの進み電流のほうが大きくなると、受電端電圧>送電端電圧の現象が起きる。これをフェランチ効果と呼ぶ。
電線路のこう長が長いほど、静電容量が大きくなり起こりやすい。
受電端に地中電線路などでケーブルを使用していると、静電容量が大きくなり起こりやすい。
線路電流が小さい場合もインダクタンスによる電圧降下が小さくなり、静電容量の影響が大きくなり起こりやすい。
逆潮流
分散型電源設置者(太陽光発電など)から、一般送配電事業者の運用する電力系統へ向かう有効電力の流れのこと。
逆潮流が発生すると、配電線の電圧が上昇して、需要家端子電圧を逸脱する可能性が出てくる。
電圧フリッカ
配電線にアーク炉や溶接機などの大電流変動負荷が接続されると、負荷電流による電圧降下のため配電線の電圧が変動する。この電圧変動が頻繁に繰り返され、照明のちらつきやトルクのムラを生じる現象のこと。
電圧フリッカの尺度
電圧フリッカの評価は、人間の目が最も敏感となる10Hzの、電圧変動量を100Vに対する変動量に換算したΔV10で示す。
電力会社ではΔV10が0.45V以下となるように管理している。
測定単位として、1分間1個、1時間では60個の95%の値から評価値を求める。
指標の算出には、変動する電圧の実効値の差を周波数で分解し、「ちらつき視感度曲線」の周波数ごとの係数で重みづけした基本量を2乗平均する。
瞬時電圧降下
送電線への落雷などで地絡や短絡が発生した場合、停電範囲の拡大を防ぐため、送電線を電力系統から瞬時に切り離す。この切り離しまでの短時間(0.05~2s)に事故点を中心に広範囲に電圧低下を起こす現象。
コンピュータ等の電源に影響を及ぼすおそれがあるため、UPS装置の設置などで対応する。
電線の電力損失
電線路の損失の種類
電線路の損失の大部分は、導体中の抵抗損である。
架空送電線路は裸電線のため、空気の絶縁破壊であるコロナ損がある。シース損(外被覆の損失)と誘電体損は考慮しない。
地中送電線路はケーブルのため、シース損、誘電体損がある。コロナ損は考慮しない。管路内に併設された他のケーブルの損失熱が温度上昇を増加させる作用をする。
(浮遊負荷損は変圧器や回転機の損失で電路の損失ではない)
電線の抵抗損
最も大きい損失で、抵抗のジュール熱。
電流の2乗に比例する。
表皮効果で導体の抵抗は高くなるので、交流のほうが抵抗が大きい。
裸電線のコロナ損
電線表面の電界強度が大きくなり、電線周囲の空気絶縁が破れコロナ放電が生じ、電力損失となる。
ケーブルのシース損
ケーブルの電流によって発生する磁束の電磁誘導で生じる金属シース(外側の被覆)の損失。
CVTケーブルでは、各ケーブルの周りの磁界が打ち消し合うため発生しない。
シースの長手方向に発生するシース電流によるシース回路損と、シースの円周方向に発生する渦電流による渦電流損がある。
シース回路損を減らすには、シース電流を打ち消すようにクロスボンド接地をする。
渦電流損を減らすには、導電率の低い金属シース材を使用して渦電流を抑制する。
ケーブルの誘電体損
絶縁体内部での熱エネルギーの損失。
絶縁体の誘電率と誘電正接の積に比例する。
絶縁体が劣化すると大きくなる。
配線方式と電力損失
電線の抵抗Rによって銅損が発生し、回路全体に電力の損失がおこること。
単相2線式
往復2本の線に電流が流れる分の電力損失を表す。
電力損失 $\displaystyle p=2RI^2 \ [W] $
単相3線式
平衡負荷で中性線は0と考えて、2本の線に電流が流れる分の電力損失を表す。
(負荷が不平衡の場合は、中性線の電力損失分が加わる)
電力損失 $\displaystyle p=2RI^2 \ [W] $
三相3線式
3本の線に電流が流れる分の電力損失を表す。
電力損失 $\displaystyle p=3RI^2 \ [W] $
三相4線式
中性線は0と考えて、3本の線に電流が流れる分の電力損失を表す。
電力損失 $\displaystyle p=3RI^2 \ [W] $
線路損失と改善
三相3線式の線路の電力損失pを受電端の負荷電力Pで表すと以下のようになる。
線路の損失は電流(負荷電力)の2乗に比例し、受電端電圧・力率の2乗に反比例する。
受電端電圧を高くしたり力率を改善することは損失の削減となる。
$\displaystyle p=3RI^2=3R\left(\frac{P}{\sqrt{3}V_rcosθ}\right)^2 $
送電電力
発電所で作った電気を各所へ送る際の電力。実際には受電端の負荷の有効電力である。
一相等価回路とベクトル図を考える。送電線路の抵抗RはリアクタンスXに対して小さいため無視する。(一般的に送電電力の単位は大きいため、電圧降下時と異なり抵抗Rを無視している)


送電端と受電端の電圧の相差角(位相差)δのとき、以下が成り立つ。
Essinδ=IXcosθ
三相の負荷の有効電力P=3ErIcosθに上記を代入する
$\displaystyle P=\frac{3E_sE_r}{X}sinδ=\frac{V_sV_r}{X}sinδ \ [W] $
$E_s$:送電端相電圧 [$V$]
$E_r$:受電端相電圧 [$V$]
$V_s$:送電端線電圧 [$V$]
$V_r$:受電端線電圧 [$V$]
$X$:線路リアクタンス [$Ω$]
$δ$:相差角(電圧の位相差)
送電電力(負荷の有効電力)は、送電端電圧と受電端電圧がほぼ同じと考えれば、送電端電圧(受電端電圧)の2乗に比例する。
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