伝達関数

スポンサーリンク

伝達関数

制御工学において、入力と出力の関係を表すものが伝達関数である。
伝達関数は時間軸tをラプラス変換した複素数sの関数で表される。この複素数sを周波数jωにすれば周波数の関数として表現できる。周波数による入力と出力の関係(周波数特性)を知ることができる。
入力信号Ei(jω)、出力信号Eo(jω)の場合、伝達関数は入力信号と出力信号の比で表す。
信号は電圧や電流などである。
G(jω)=出力/入力=Eo(jω)/Ei(jω)
入力信号のラプラス変換X(s)、出力信号のラプラス変換Y(s)の場合、伝達関数は入力信号と出力信号の比で表す。周波数伝達関数のjωをsに置き変えたものと考えてよい。
G(s)=出力信号/入力信号=Y(s)/X(s)

制御方式と伝達関数

  • 開ループ伝達関数:入力→出力へ一方向の制御。
  • 閉ループ伝達関数:フィードバック制御のように出力→入力へ戻るルートがある制御。
  • 一巡伝達関数:フィードバック制御の入力へのルート部分を切断したもの。
    フィードバックルートの中の処理を含んだ安定度を計算する為に用いる。

比例・積分・微分要素

比例要素(P)

入力信号の目標値までの偏差に比例した出力を出して目標値に近づける。

$\displaystyle G(s)=K (G(jω)=K) $

$K$:比例定数

積分要素(I)

入力信号の偏差の時間積分値に比例した出力を出し、出力を目標値に留める。

$\displaystyle G(s)=\frac{1}{s} \left(G(jω)=\frac{1}{jω}\right) $

微分要素(D)

入力信号の偏差の微分値(変化速度)に比例した出力を出し、出力の振動を防ぐ。

$\displaystyle G(s)=s (G(jω)=jω) $

むだ時間要素

入力を加えたときに出力が直ちに現れず、時刻Lだけ遅れて現れる要素。Lをむだ時間と呼ぶ。

$\displaystyle G(s)=e^{-Ls} G(jω)=e^{-jωL}=cos(-Lω)+jsin(-Lω)) $

1次遅れ要素

1次遅れ要素とは、伝達関数の入力と出力の関係において、以下の式が成り立つものをいう。
具体的には、電源投入後一定電圧に収束するまでに時間がかかるものが該当する。
電気回路では、積分回路(ローパスフィルタ)が該当する。

$\displaystyle G(s)=\frac{1}{τs+1} \left(G(jω)=\displaystyle\frac{1}{jτω+1}\right) $

$τ$:時定数

2次遅れ要素

2次遅れ要素とは、伝達関数の入力と出力の関係において、以下の式が成り立つものをいう。
具体的には、振動を伴いながら収束するものが該当する。
電気回路では、RLC回路が該当する。

$\displaystyle G(s)=\frac{{ω_n}^2}{s^2+2ζω_ns+{ω_n}^2} $

$ω_n$:固有角周波数
$ζ$:減衰係数

2次遅れ要素のステップ入力時の過渡応答には以下の特徴がある。

減衰係数(ζ)

ζ=0:振動が収束しない。
0<ζ<1:不足制動(振動する)
ζ=1:臨界制動(振動しない)
ζ>1:過制動(振動しない)
減衰係数ζが大きいと振動が小さくなり、収束(応答)は速くなる。

固有角周波数(ωn)

固有角周波数ωnが大きいと振動が速くなり、収束(応答)は速くなる。

実際の回路の伝達関数例

例えばRL直列回路(積分回路)での抵抗Rの電圧を出力とする場合の伝達関数は以下のようになる。

$\displaystyle G(jω)=\frac{出力電圧}{入力電圧}=\frac{v_o}{v_i}=\frac{RI}{(R+jωL)I}=\frac{R}{R+jωL}=\frac{1}{jτω+1} $

上記の積分回路の伝達関数を時定数τ=L/Rで変換すると、1次遅れ要素に該当することがわかる。

RC直列回路(積分回路)でのコンデンサCの電圧を出力とする場合の伝達関数は以下のようになる。

$\displaystyle G(jω)=\frac{出力電圧}{入力電圧}=\frac{v_o}{v_i}=\frac{\displaystyle\frac{1}{jωC}I}{(R+\displaystyle\frac{1}{jωC})I}=\frac{1}{jωCR+1}=\frac{1}{jτω+1} $

上記の積分回路の伝達関数を時定数τ=RCで変換すると、1次遅れ要素に該当することがわかる。
周波数伝達関数G(jω)は、出力/入力の関数なので、G(jω)=入力電流/出力電圧などの変則的なものもありうるので問題文の定義に注意する。
複数の抵抗などがある場合でも、時定数のR・L・Cの値は回路上の合成の値なので注意する。

伝達関数とブロック線図

ブロック線図は、制御系における信号の流れを図で示したものである。

ブロック線図の結合

入力X(s)から複数の伝達関数(G1、G2)を通って出力Y(s)するとき、複数の伝達関数は一つに結合することができる。

直列結合

並列結合

フィードバック結合

実際のブロック図の結合例

フィードバックの変形に当てはまる場合

  1. 上記図はフィードバック(ピンク部分)の戻りルートの伝達関数(G2)が無い形で、その出力に伝達関数Kが直列結合している。
  2. フィードバック部分の伝達関数(G2)を無くしたものと伝達関数Kを直列結合した式となる。

$\displaystyle C(jω)=\left(\left(\frac{\displaystyle\frac{1}{jωT}}{1+\displaystyle\frac{1}{jωT}}\right)・K\right)R(jω)=\left(\frac{K}{1+jωT}\right)R(jω) $

ルートごとの式を作る場合

  1. ルート毎に数字を割り振って、それぞれの式を作成し、出力ルートの一つの式にまとめていく。
  2. 各ルートに①~③の番号を振り、出力ルートと①~③の結合式を作成する。
    ①=V1ー③
    ②=①・G1
    V2=②+D
    ③=V2・G2
  3. ①の式に③を代入、V2の式に②を代入すると以下の2式となる。
    ①=V1ー(V2・G2)
    V2=(①・G1)+D
  4. V2の式に①の式を代入して整理すると以下の式となる。
    V2=((V1ー(V2・G2))・G1)+D
    V2=(G1・V1)ー(G1・G2・V2)+D
    V2+(G1・G2・V2)=(G1・V1)+D
    (1+G1・G2)・V2=(G1・V1)+D
    V2=(G1・V1)/(1+G1・G2)+D/(1+G1・G2)

ボード線図

ボード線図は、角周波数ω[rad/s]を横軸、ゲイン[db]・位相θ[度]を縦軸にとり伝達関数の周波数特性を示す図。

ゲイン特性

入力に周波数(jω)の正弦波を入力したとき、出力の正弦波の振幅の変化がどうなるかを「ゲイン」で表したもの。

$\displaystyle g=20log|G(jω)| \ [dB] $

$g$:ゲイン [$dB$]
$G(jω)$:伝達関数=出力/入力

位相特性

入力に周波数(jω)の正弦波を入力したとき、出力の正弦波の位相のずれがどうなるかを表したもの。

$\displaystyle θ=∠G(jω) \ [度] $

$G(jω)$:伝達関数=x+jy

積分回路(ローパスフィルタ)のボード線図

積分回路のボード線図を作成する。
積分回路の伝達関数を求め、実部と虚部の式にする。(τは時定数)

$\displaystyle G(jω)=\frac{出力}{入力}=\frac{1}{1+jτω}=\frac{1}{1+(τω)^2}-j\frac{τω}{1+(τω)^2} \ $

伝達関数の値

折れ点周波数は、角周波数ωc=1/τとなる周波数で、ゲイン特性線がー20dB/decの直線に曲がる点(近似)である。
折れ点周波数ωc=1/τを基準にして、角周波数ωが変化したときの伝達関数の値は以下のようになる。

  • 低周波(ω<<1/τ):τω<<1より、G(jω)=1ーj0=1
  • 同周波(ω=1/τ):τω=1より、G(jω)=1/2ーj1/2=1/√2
  • 高周波(ω>>1/τ):τω>>1より、G(jω)=0ーj(1/τω)=ーj(1/τω)

位相特性

位相特性は、虚部と実部のグラフの角度θより、以下の特性線(橙の線)となる。

  • 低周波(ω<<1/τ):G(jω)=1ーj0より、θ=0°(0°に近い直線)
  • 同周波(ω=1/τ):G(jω)=1/2ーj1/2より、θ=ー45°(折れ点周波数)
  • 高周波(ω>>1/τ):G(jω)=0ーj(1/τω)より、θ=ー90°(ー90°に近い直線)

ゲイン特性

ゲイン特性は、20log|G(jω)|より、以下の特性線(赤の線)となる。

  • 低周波(ω<<1/τ):G(jω)=1より、20log1=0 [dB](0dBの直線)
  • 同周波(ω=1/τ):G(jω)=1/√2より、20log1/√2=ー3 [dB](折れ点周波数)
  • 高周波(ω>>1/τ):G(jω)=ーj(1/τω)より、20log(1/τω)=ー20log(τω) [dB](ωが10倍になるとー20dBとなる直線)

微分回路(バイパスフィルタ)のボード線図

RC微分回路の伝達関数をみると以下のように展開できる。(τは時定数)

$\displaystyle G(jω)=\frac{出力}{入力}=\frac{R}{R+\displaystyle\frac{1}{jωC}}=\frac{1}{\displaystyle\frac{1}{jωCR}+1}=\frac{1}{\displaystyle\frac{1}{jτω}+1} \ $

積分回路(ローパスフィルタ)のボード線図の左右反転の図となる。
位相特性は次の特性の線となる。

  • 低周波(ω<<1/τ):θ=ー90°(ー90°に近い直線)
  • 同周波(ω=1/τ):θ=ー45°(折れ点周波数)
  • 高周波(ω>>1/τ):θ=0°(0°に近い直線)

ゲイン特性は次の特性の線となる。

  • 低周波(ω<<1/τ):ー20log(ωτ) [dB](ωが10倍になるとー20dBとなる直線)
  • 同周波(ω=1/τ):ー3 [dB](折れ点周波数)
  • 高周波(ω>>1/τ):0 [dB](0dBの直線)

ボード線図による安定判断

ゲイン特性曲線が0dbで交わる点(ω1)において、位相特性曲線の値がー180°以上なら安定。
位相特性曲線がー180°で交わる点(ω2)において、ゲイン特性曲線の値が0db以下なら安定。

  • ゲイン余裕:ω2において、ゲイン曲線と0dbとの幅。
  • 位相余裕:ω1において、位相曲線とー180°までの幅。

フィードバック制御の戻りの信号(一巡周波数伝達関数の出力)の位相が入力信号より180°遅れると、加え合わせ点において信号が重なって振幅が拡大してしまい、動作が不安定になる。
不安定を防ぐには、180°遅れた信号のゲインが1より小さくなければならない。

ナイキスト線図

伝達関数の周波数特性をグラフで表現したもの。
実部を横軸、虚部を縦軸にとり、角周波数ωを0~∞まで変化させた軌跡を描いたもの。
フィードバックを有する制御系の安定度を評価するのに用いる。
軌跡の赤線が横軸(実部)交わる位相交点のxの値で安定度を判定する。
ー1<x<0の場合が安定、x=ー1の場合が安定限界、x<ー1の場合が不安定を表す。

  • ゲイン余裕:曲線と横軸(実部)の位相交点と(ー1,j0)の幅。
  • 位相余裕:曲線と円のゲイン交点と(ー1,j0)までの角度。

ラプラス変換と伝達関数

ラプラス変換は、プロセス制御の入力と出力、その比である伝達関数の解析で使用される。
時間の関数f(t)を複素数の関数F(s)に変換したもので、ラプラス変換を行うと、微分や積分は代数の演算に置き換わるため、計算しやすくなる。

ラプラス変換

ラプラス変換前の関数(時間関数)とそのラプラス変換は1対1で対応しているため、ラプラス逆変換はラプラス変換を逆にたどることで求めることができる。

よく使われるラプラス変換

$f(t)$$F(s)$
$1$$\displaystyle\frac{1}{s}$
$t$$\displaystyle\frac{1}{s^2}$
$e^{-at}$$\displaystyle\frac{1}{s+a}$
$sinωt$$\displaystyle\frac{ω}{s^2+ω^2}$
$cosωt$$\displaystyle\frac{s}{s^2+ω^2}$
$\displaystyle\frac{df(t)}{dt}$$sF(s)-f(0)$
$\displaystyle \int_0^t f(t) dt$$\displaystyle\frac{1}{s}F(s)$

入力信号として使用される関数

ステップ関数

単位ステップ関数は、f(t)=0(t<0)、f(t)=1(t≧0)となる関数である。
ラプラス変換ではF(s)=1/sとなる。

ランプ関数

単位ランプ関数は、f(t)=0(t<0)、f(t)=t(t≧0)となる関数である。
ラプラス変換ではF(s)=1/s2となる。

最終値定理と定常値

最終値定理は、時間領域でtを0→無限大に近づけた時のf(t)の値が、ラプラス変換後のsF(s)のsを0に近づけることで求まるものというものである。
制御系において入力を加えてから十分時間が経過した時の定常値を求める場合、ラプラス変換の最終値定理を使用する。

$\displaystyle \lim_{ t \to \infty } f(t) = \lim_{ s \to 0 } sF(s) $

伝達関数G(s)のシステムにおいて、入力信号としてステップ信号u(t)=3を加えた場合の十分時間が経過した時の出力値を求める。

$\displaystyle G(s)=\frac{2}{s^3+2s^2+2s+3} $

ステップ信号u(t)=3をラプラス変換すると以下となる。

$ u(t)=3 → u(s)=\displaystyle \frac{3}{s} $

ステップ信号を入力した時の出力F(s)は以下となる。

$\displaystyle F(s)=G(s)・u(s)=\frac{2}{s^3+2s^2+2s+3}・\frac{3}{s} $

以下のように最終値定理に当てはめると、十分時間が経過した時の出力値は2となる。

$\displaystyle \lim_{ t \to \infty } f(t) = \lim_{ s \to 0 } sF(s) =\lim_{ s \to 0 }s・\frac{2}{s^3+2s^2+2s+3}・\frac{3}{s}=2 $

ラウスの安定判別法(フルビッツの安定判別法)

制御系が安定かを判別する方法。
特定方程式(伝達関数の分母を=0とした方程式)に関して以下の要素で判定する。

  • すべての項について係数が存在する。(0ではない)(必要条件)
  • 係数の符号が一致している。(必要条件)
  • ラウス表の第1列の符号が等しい。(必要十分条件)
                    ラウス表

伝達関数G(s)のシステムにおいて、安定になるためのKの条件をラウスの安定判別法より求める。

$\displaystyle G(s)=\frac{100K}{s^3+41s^2+40s+100K} $

分母=0として特定方程式を作る。

$\displaystyle s^3+41s^2+40s+100K=0 $

ラウス表を作成する。

第1列第2列
s3140
s241100K
s1(41×40ー1×100K)/410
s0100K0
        

ラウス表の第1列のs1および、s0は正でなければならない。
s1より、(41×40ー1×100K)/41>0 → K<16.4
s0より、100K>0 → K>0
従って、安定条件は 0<K<16.4 となる。

伝達関数の極と零点

伝達関数をsの複素数関数とすると、極と零点を導くことができる。
:分母=0(特定方程式)となる解(s)
零点:分子=0となる解(s)

極の位置による特徴

  • 極の実部が全て負なら収束して安定し、1つでも正なら応答が発散する。(システムは不安定である)
  • 極の実部の絶対値が大きいほど、収束(発散)が速い。
  • 極の虚部の絶対値が大きいほど、振動が速い。

伝達関数G(s)のシステムにおいて、極と零点を求める。

$\displaystyle G(s)=\frac{s^2+4s+20}{s^2+2s+5} $

極と零点を、二次方程式の解の公式より求めると以下となる。

$s^2+2s+5=0$
極:$s=-1+j2、-1-j2$
$s^2+4s+20$
零点:$s=-2+j4、-2-j4$

複素平面図に書くと以下ようになり、極、零点ともに安定領域にある。


Ver1.0.3

タイトルとURLをコピーしました