人体

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人体と熱

体温

体温の測定では、外気温の影響を受けにくい核心温(深部体温)を使用し、皮膚温は使わない。手足より顔の皮膚温は高い
核心温は、最も高い直腸温(欧米では口腔温)が用いられ、恒常性(ホメオスタシス)によって約37℃に保たれている。朝に最低値を示し、夕方に最高値を示す。
平均皮膚温は、各部位の皮膚温をそれぞれの皮膚面積で重みづけ平均した値である。重みづけが一番大きいのは腹である。
一般に、平均皮膚温が33~34℃の時に温熱的中性申告(快適)が得られる。平均皮膚温と温冷感申告には、一次相関が見られることが多い。

寒冷環境と低体温症

寒冷環境では、温暖環境に比較して、体内と身体表層部との温度差が大きくなる。
低体温症は、核心温(深部体温)が35℃を下回ることにより、体の機能を正常に維持できなくなる状態である。
5℃以下の水に突然つかると5~15分間で生じる。乳幼児や高齢者は寒さへの適応力が低く、低体温症のリスクが高い。
凍傷による障害は、組織の凍結と周辺の血管収縮、血栓による血流阻害により起きる。

体温の調節

熱産生

熱産生は、人体で熱を生産することである。この熱を産熱量と呼ぶ。
熱産生は、摂取した食物の代謝による化学的エネルギーに由来する。
産熱機能として基礎代謝がある。
体温の上げる反応としては、皮膚血流量の減少や、筋緊張、震え、立毛などがある。

熱放散

熱放散は、人体から熱が放出されることである。
人体からの放熱は皮膚表面からと呼吸に伴う経路があり、蒸発25%<伝導・対流30%<放射45%である。
蒸発は、水分が皮膚より気化するときに潜熱で皮膚表面の熱を奪う現象である。
伝導は、身体直接接触する物体との間の熱移動現象である。人体の周りの空気による伝導はほとんどない。
対流は、人体と空気の温度差により起きる、流体の流れに伴う熱エネルギーの移動現象である。
放射は、身体と周囲の固体(壁など)温度が低いとき、体から固体に向かって放熱する現象である。
気温が35℃以上になると、放射が減り、蒸発による放熱が最大となる。
人体からの放熱は、主に顕熱であり、室温が低い冷房時に増加する。
体温を下げる反応としては、呼吸数の増加、皮膚血管の拡張、発汗などがある。

体温調節

生体は、体内における熱産熱と熱放散が平衡を保ち、一定の体温を維持している。
熱放散量が熱産生量より大きければ体温は下降する。
熱産生量は、代謝熱で外気温に影響されずほぼ同じなので、体温の調整には、文化的・行動性体温調節と自律性体温調節を使う。
文化的・行動性体温調節は、衣服・冷暖房などを使用して行う体温調節のことである。
自律性体温調節は、汗をかくなどの意識せずに行われる体温調節のことである。
身体貯熱=熱産熱量-熱放散量で表される。
体温調節機能は、恒常性(ホメオスタシス)の一例である。

汗腺

汗腺には、エクリン腺とアポクリン腺があり、エクリン腺はほぼ全身にあり、アポクリン腺は脇や陰部に分布している。
暑い時の発汗はエクリン腺から分泌される。
汗腺は、汗を出す能動汗腺と、汗ではなく臭いを出す不能汗腺がある。南方の民族は、能動汗腺の数が多い。
皮膚疾患や重度の日焼けのときには発汗作用は低下するので、注意が必要である。

人体と水

体内水分量は、体重の50~70%で、体重当たりの体内水分量は、女性より男性が多く、年齢が小さいほど多い。
血液の大部分は水分である。体内の水分のうち、細胞内液は約2/3で、細胞外液は約1/3である。
生理的に必要とする水分量は、1日に1.5L程度である。
小児が生理的に必要とする水分量は、体重当たりに換算すると成人の3~4倍となる。
体重当たりの水分欠乏率が1%を超えると口渇を感じ、2%程度になると強い渇きを生じる。6%程度を超えると手・足のふるえが生じ、8%を超えると重大な障害がおこり、10%を超えるとけいれんや失神を起こす。18%となると尿生成が停止し、20%で死亡する。
体内における食物の代謝過程で生成される代謝水は、1日約0.3L程度である。
成人の場合、定常状態では水の損失は1日2.5Lで、最も多く排泄されるのは尿で1~2L(最低限度必要な尿量は0.5L程度)である。その次は皮膚からの蒸泄で、呼吸は損失全体の約1/6である。
水分を取りすぎ、体内の塩分が薄まると熱けいれん(軽度の熱中症)を起こす。

代謝

代謝は、人間が生きるために消費するエネルギーである。
加齢とともに摂取エネルギー量、エネルギーを予備力として蓄えておく能力は共に低下する。

代謝量

低い順番に以下のよう分類される。

  • 安静(65W/m2):仰向けの状態。
  • 低代謝(100W/m2):手足先動作。
  • 中程度代謝(165W/m2):腕動作。
  • 高代謝(230W/m2):全身動作。(コンクリートブロックを積む、のこぎりをひくなど)
  • 極高代謝(290W/m2):激しい動作。(階段を登るなど)

基礎代謝

基礎代謝とは、早朝覚醒後空腹仰臥(ぎょうが)の姿勢におけるエネルギー代謝のことである。
代謝量は、睡眠時代謝量(95%)<基礎代謝量(100%)<いす座位の安静時代謝量(120%)の順番となる。
女性より男性のほうが多く、食事の後や、低温(冬)の環境では増加する。
日本人の30歳代の平均基礎代謝量は、男性で1500kcal、女性で1150kcal程度である。
幼少期が最大で、15~20歳までに低下する。
運動時や高温時は代謝量が増加するが、基礎代謝量の増加ではない。

人体の構造

人体の系統と疾患

  • 骨格系(骨):筋の助けを受け運動を行い、臓器の保護などの働きをする。[骨折]
  • 筋系(靱帯・筋):身体各部を動かす働きをする。
  • 消化器系(口、食道、胃、腸、肝臓):栄養や水を摂取して体内で再合成と排泄を行う。
  • 呼吸器系(鼻、喉頭、気管、):ガスの交換を行い、喉頭は発声の作用をする。[肺気腫]
  • 泌尿器系(腎臓、尿管、膀胱、尿道):血液の中から老廃物などを尿として排泄する器官。[腎不全]
  • 生殖器官(精巣、卵巣、子宮、外性器):性細胞の産出、受精および受胎に関与する。
  • 内分泌器系(下垂体、甲状腺、副腎):血液中に成長、代謝ホルモンを産生する器官。
  • 感覚器系(目、耳、鼻、皮膚):外部からの刺激を受けて神経系に伝える。[白内障、メニエール病]
  • 循環器系(心臓、血管、リンパ管、脾臓):血液、リンパ液の循環に関与する器官。[心筋梗塞、白血病]
  • 神経系(脳、脊髄、中枢神経、末梢神経):身体の各部へ刺激を送り、知覚を伝え、身体の恒常性を維持する。[パーキンソン病]

血液は、赤血球(酸素と二酸化炭素の運搬)、白血球(病原体やガン細胞を攻撃する防御作用)、血小板(止血)などで構成される。
呼吸は、呼吸器系(肺や気道)で、酸素を取り込み、循環器系(リンパや心臓)が運んできた二酸化炭素を排出する。
中枢神経は、脳と脊髄からなり、末梢神経を通じて全身に命令を送る神経である。末梢神経には、運動神経と自立神経がある。運動神経は中枢神経からの命令を運動器官に伝え、体の動作を司る。自立神経は、交感神経・副交感神経により消化・呼吸・循環等の諸機能の無意識での調整を司る。

人体の恒常性

外部環境の変化に対し内部環境を一定に保つ仕組みを恒常性(ホメオスタシス)と呼ぶ。
生体の恒常性は、神経系内分泌系免疫系等の機能により維持されている。
生体に刺激が加えられると、生体内に変化が生じ、適応しようとする反応が非特異的に生じる。これを生体のフィードバック機構という。恒常性はフィードバック機構により維持される。
生体のフィードバック機構は、受容器(刺激を受ける器官)→調節中枢(指令を出す器官)→効果器(反応が現れる器官)の順で働く。
有害ストレッサ(物理的・化学的刺激、社会的・精神的要因)は、恒常性を乱し、病気の発症や経過に影響を与える。
人体の状態変化は、有害物の負荷量と影響で、正常調節→代償的調節→一時的機能障害→恒久的障害→死の順となる。

高齢者の特徴

皮膚の痛点や冷点が少なくなる。
冬季には、若年者に比べ深部体温は低い。血圧の変動が顕著である。
代謝量が低下するので若年者より暖かい温度を好むが、寒さに対する感受性が低下しているため、実際の室温は低い場合が多い。

がん

がんは、DNAが何らかの原因で損傷し、正常細胞が、がん細胞へと変化することで発生する。
発がんの要因として、食事が1/3、生活習慣で2/3を占める。
感染症・ウィルスが発がんの原因となることがある。
DNAに最初に傷を付け、変異を起こさせる物質をイニシエータといい、発がん作用を促進する物質をプロモータという。

建築物での健康被害

健康に影響を与える環境要因には、物理的要因(温湿度・気圧・光・音・振動・放射線など)と化学的要因(空気中の物質)がある。
空気調和・換気設備に関連する健康障害は、微生物によるものがあり、ビル関連病(BRI)に代表される。
微生物汚染の問題は、主に細菌と真菌によるものである。事務所建築物の室内では、浮遊細菌濃度の方が高い。
オフィスビル内の細菌の主な発生源は在室者である。したがって屋外の浮遊細菌濃度とは相関が低い。
空気調和機内は、微生物の増殖にとって好環境となる。加湿器の管理が不適切であると、室内空気の微生物汚染の一因となる。

シックビル症候群

シックビル症候群とは、多くの人(居住する人の20%以上)が不快感を感じる状況で、問題となるビルを離れると症状が改善する。
特異的な症状はないが、頭痛めまい胸部圧迫感息切れ、咳などの症状を呈することがある。
要因として、気密性の高さや、揮発性有機化合物、清掃の回数不足、職場のストレスアトピー体質などが考えられるが、原因は特定されていない
学校でも発生が見られる。
建築基準法では、居室に対して、ホルムアルデヒドの発生源になるような建材の使用制限、クロルピリホスの使用禁止、換気設備の義務付けなどの対策を決めている。

アレルギー

アレルギー反応は、アレルゲンと呼ばれる特定の抗原に反応する、体に有害免疫反応である。
アレルゲンが体内に入った時に排除するように働く抗体として、免疫グロブリンと呼ばれるたん白質がある。
アレルギー疾患には、アトピー性皮膚炎、花粉症、過敏性肺炎、喘息などがある。
日本国民の約半分は、何らかのアレルギーに罹患(りかん)している。
アレルゲンの同定は、症状発生の防止、治療の上で重要である。同定方法の一つに皮内テストがある。
アレルギー反応の発現には、体内の肥満細胞の働きが関係する。

アレルゲン

アレルギーの原因であるアレルゲンには、真菌(カビ)、花粉、ハウスダストダニの糞や死骸などがある。
真菌には、アルテルナリア(ススカビ)、クラドスポリウム(黒カビ)、ペニシリウム(青カビ)、アスペルギルスなどがある。
ダニアレルゲンに、ヒョウヒダニの糞死骸がある。
アレルゲンの大部分は、数μm以上の粒子である。
学校保健安全法学校環境衛生基準には、ダニ又はダニアレルゲンの基準が含まれている。
スギ花粉の除去にエアフィルタが有効である。
低湿度による、発じんと静電気の発生が要因になることが多い。

過敏性肺炎

過敏性肺炎は、有機粉じんや好熱性放線菌、真菌を吸った場合におこる。(たばこではない)
過敏性肺炎の予防には、加湿器、飲料用貯水槽、空調用エアフィルタなどを清掃し、微生物汚染を防止することが重要である。

喘息

気管支喘息のアレルゲンとして代表的なのは、ハウスダストヒョウヒダニ類である。(真菌ではない)微小なダニや昆虫類の死骸の破片は、喘息の原因の一つである。
患者の素因は、発症・増悪因子の一つである。

アトピー性皮膚炎

皮膚のバリア機能が弱まり、外からのアレルゲンが皮膚の中に入りこみ、かゆみを伴う湿疹となる。
皮膚を乾燥させる低湿度は、アトピー性皮膚炎の増悪因子である。

ヒスタミン食中毒

ヒスタミン食中毒は、症状がアレルギーに似ているが、ヒスタミンを多く含む食品を食べることによって引き起こされる食中毒である。

熱中症

熱中症は暑熱障害による以下の症状の総称である。

熱失神

血管の拡張による血圧の低下

熱けいれん

大量に発汗した際、水分の大量摂取で塩分が希釈する低ナトリウム血症。

熱疲労

大量の発汗により体内の水分塩分が不足することによる臓器の機能低下。

熱射病

高温にさらされた結果、体温調節中枢神経機能の異常による体温の急激な上昇
熱射病の治療は、全身の冷却が第一であるが、冷やし過ぎには十分に注意する。

空調によるストレス

ヒートショック

空調による室内外の温度差を原因とするストレスのこと。
冷房障害は、寒さにより血管が収縮し、血流が減ることが原因である。男性より女性に多い。
手足の末端ほど皮膚温の低下が大きく、周囲との温度差を減らそうとして、体がだるくなる。
対策として、室内の風速(気流ではない)をなるべく減らし、室温と外気温との差を7℃以内にすることなどがある。

ドラフト

不快な局部気流のこと。
風速、気流変動の大きさ、空気温度の影響を受ける。
コールドドラフトは、冷たい壁付近などで自然対流によって生じる下降が原因となる。
ドラフトや停滞域を生じにくくするには、温風が上部に停滞したり、冷風が下部に停滞しないように、停滞する逆方向から吹き出すようにする。



Ver.1.2.2

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