熱の伝わり方
熱の伝わり方は、伝導、対流、放射(輻射)に分類される。
熱は高温から低温へ移動する。低温から高温に移動するには何らかのエネルギーを必要とする。(熱力学の第二法則)
伝導
固体、静止した液体・気体内部で熱が移動すること。
熱伝導率
熱伝導率は、主に固体内での、単位距離当たりの熱の伝わりやすさを示す。
単位は[W/(m・K)]である。
逆数は熱の伝わりにくさで、熱抵抗率である。(断熱材は熱抵抗値で表記される)
熱抵抗率[(m・K)/W]に、厚さ[m]を乗じたものを熱伝導抵抗[(m2・K)/W]という。
物質の熱伝導率
熱伝導率が高い順番は、以下となる。
アルミニウム>鋼材>コンクリート>ガラス>木材・石膏>断熱材(硬質ウレタン・グラスウール)>空気
水分が多い、密度が大きい(重い)、温度が高いほど熱伝導率は大きくなる。(熱伝導抵抗は小さくなる)
空気は熱伝導率が低いため、二重窓では空気の層(中空層)を作っている。
中空層の熱抵抗は、密閉度が高いほど大きく、2~5cmまでは厚さにつれて増大するが、それ以上ではほぼ一定になる。
ガラス繊維などの断熱材の熱伝導率が小さいのは、繊維材によって内部の空気の流動が阻止されることによる。
対流
気体や液体(空気や水など)の流体が、温度の違いによって熱を帯で移動すること。
放射(輻射)
電磁波によって熱が空間を伝わって移動すること。(色の影響はない)
ステファン・ボルツマンの法則
熱放射によって放出される放射エネルギーは、 絶対温度の4乗に比例する。
黒体(外部から入ってくる放射をすべて吸収する理想的な熱放射体)からの放射束(ある面を時間当たりに通過する放射エネルギーの量)は絶対温度の4乗に比例する。
$\displaystyle E_b=σT^4 \ [W/m^2] $
$E_b$:放射エネルギー [$W/m^2$]
$σ$:ステファン・ボルツマン係数
$T$:絶対温度 [$K$]
形態係数と物体間の放射熱
実際の物体間は、一方の面から放射されたエネルギーの一部だけが他方の面に届く。一方の面から放射されたエネルギーのうち他方の面に届いた割合を形態係数という。
形態係数F12=面2に届いた放射エネルギー/面1から放射したエネルギー
形態係数F21=面1に届いた放射エネルギー/面2から放射したエネルギー
面1の面積A1、面2の面積A2の場合は、移動間のエネルギーは同じなので以下が成り立つ。
$\displaystyle A_1F_{12}=A_2F_{21} $
$\displaystyle q_{12}=F_{12}σ({T_1}^4-{T_2}^4) $
ウイーンの変位則
黒体では、波長と絶対温度の積は一定である。
物体の温度が高ければ、放射される波長は短くなる。
伝達
異なる2つの物質(固体-液体間、固体ー気体間)の熱移動のこと。
熱伝達は熱放射と対流によって行われ、その熱流量はそれぞれの熱流量の和となる。
流体(液体・気体)の種類、状態、温度によって変化する。
速度が速くなると熱は伝わりやすくなる。
熱伝達率
熱伝達率は、空間と壁での、単位面積当たりの熱の伝わりやすさを示す。(単位距離ではない)
単位は[W/(m2・K)]である。
逆数は、熱伝達抵抗[(m2・K)/W]である。
総合熱伝達率とは、対流熱伝達率+放射熱伝達率である。
対流熱伝達率は、空気や水の移動による熱の伝達で、境界層外部風速や壁表面の粗度の影響を受ける。
放射熱伝達率は、電磁波による熱の伝達で、材料の輻射率の影響を受ける。(色は関係ない)
一般的に、外壁と内壁では、外壁の方が風の影響で対流が起きやすいため、熱伝達率は大きくなる。
熱貫流
熱貫流
壁を伝わる熱の移動のこと。
室内の熱伝達(放射や対流で熱が壁に移動する)→熱伝導(壁内の熱移動)→室外の熱伝達(放射や対流で熱が外に移動する)を合わせたもの。
均質な材料で作られた壁内部の温度は、定常状態であれば直線分布となる。
温度の傾きが大きい→壁の間で熱が伝わっていない→熱伝導率が低い→断熱性がある。
壁表面近傍で温度が急激に変化する部分を境界層という。
熱貫流率(熱通過率)
熱貫流率は、壁を挟んだ空間と空間の、単位面積当たりの熱の伝わりやすさを示す。
単位は[W/(m2・K)]である。
逆数は、熱貫流抵抗である。壁全体の熱貫流率を求める場合は、下記の熱貫流抵抗より求める。
熱貫流抵抗=(室内と壁の熱伝達抵抗)+(壁の熱伝導抵抗)+(壁と室外の熱伝達抵抗)となる。
熱貫流率は、外部の風速が大きいほど大きくなり、外壁を構成する建築材料が厚くなると小さくなる。
熱流束
熱流束(熱流量)
熱流束(熱流量)は、単位時間に単位面積を横切る熱量である。
単位は[W/m2]である。
$\displaystyle q=\frac{Q}{S}=-λ\frac{dT}{dx}=\frac{T}{R} \ [W/m^2] $
$q$:熱流束 [$W/m^2$]
$Q$:熱量 [$W$]
$S$:面積 [$m^2$]
$λ$:熱伝導率 [$W/(m・K)$]
$dT/dx$:温度勾配 [$K/m$]
$T$:温度差 [$K$]
$R$:熱伝導抵抗 [$(m^2・K)/W$]
固体内の熱流束は、温度勾配×熱伝導率(温度勾配/熱伝導抵抗)で求められる。
多層の平板間の熱流束は等しくなるので、壁を横切る熱流束はどこでも一定で、以下が成り立つ。
熱貫流の熱流束(空間温度差/熱貫流抵抗)=部屋から壁の熱流束(空間と壁の温度差/熱伝達抵抗)=壁から外の熱流束(空間と壁温度の差/熱伝達抵抗)
空間の熱量
熱流束qの時、面積がAとすると全体の熱量は、Q=q×Aとなる。
床面が地表面から浮いた状態の立方体の場合はA=面積×6面とする。床を通しての熱移動はない場合は床を除く5面とする。
実効温度差
日射の影響を受ける熱容量の大きなコンクリート外壁等は、外から内へ熱を伝えるまでに時間がかかるので、その時間遅れを考慮した仮想の数値を使用する。
地域ごとに壁の種類や時刻・方位などで分けられた実効温度差が設定されている。
断熱指標
熱損失
室内から室外へ伝熱での熱の損失。
熱損失係数=熱損失の合計/(床面積×室内外の温度差)
小さいほど断熱性が高い。
熱容量
熱を吸収して蓄える能力。比熱に物体の質量をかけたもの。
熱容量が大きいと、熱しにくく冷めにくい。
熱容量が大きいと日射を蓄熱しやすい。
TAC温度
実際の気象データを統計処理して、空調設計用に危険率(設計値を超える確率)を設定して求めた外気温度。
物質の放射・吸収
常温物体から放射される電磁波は、波長が10μm付近の赤外線が主体であり、長波長放射と呼ばれる。
太陽放射は、可視光である0.38μm~0.78μm付近の電磁波の比率が大きい。
温度が0℃の固体表面も、熱放射している。
物体表面から放射される単位面積当たりの放射熱流(放射エネルギー)は、絶対温度の4乗に比例する。(ステファン・ボルツマンの法則)
同一温度の物体間では、放射と吸収のエネルギーが等しい(キルヒホッフの法則)ので、物体の放射率と吸収率は等しい。
長波長放射率と日射吸収率
日射は可視光線の波長を含むため、物体表面の太陽放射の吸収率(日射吸収率)は、必ずしも長波長放射率(赤外線域の放射率)と等しくなく、以下の性質がある。
縦軸を長波長放射率(0~1)、横軸を日射吸収率(0~1)とした場合、白色ペイント、黒色ペイント、アルミ箔、亜鉛鉄板(トタン板)の関係は以下のようになる。
木材・アスファルトは黒ペイントと同傾向である。白色プラスターは白色ペイントと同傾向である。新しい亜鉛鉄板も、酸化した亜鉛鉄板も同等である。
色によって影響があるのは、日射吸収率である。
日射反射率
太陽光に含まれている近赤外領域の光を高いレベルで反射することで、高いほど温度上昇を抑えることができる。
色相によって異なり、白色系の色は高く、黒色系の色は低い。
遮熱性塗料や遮熱性舗装では、日射反射率が大きくなるようにしている。
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