人体と光
視力との関係
目が視対象物の細部を見分ける能力を視力という。
視力はランドルト環(黒の円環)の切れ目を見ることで測る。
視力は、0.1lx付近で大きく変化する。また、10000lxまでは照度の上昇で視力は向上する。
ヒトが色を識別できるの照度は3lx以上である。
照度が低下すると、瞳孔は散大する。
照度が高くなると、細かいものを識別しやすくなる。
人間の網膜
眼の網膜(目の一番奥に広がっている膜)にある視細胞が光を感知する。
視対象を正確に認識することを明視といい、大きさ・コントラスト・時間・明るさが必要である。
網膜には、暗いときに働く感光度の高い杆体細胞(形を感じる)と、明るいときに働く解像度の高い錘体細胞(色を感じる)がある。
杆体細胞は、錐体細胞の約500倍の感光度をもつ。
錐体細胞は、色覚に必要な化学物質を含んでおり、光の三原色である赤、青、緑の光に反応する3種類の細胞がある。
数は杆体細胞のほうが多い。
暗順応と明順応では、明順応の方が早く順応する。 暗順応には40分程度かかる。
色彩
色彩は、色相、明度、彩度(鮮やかさ)の組み合わせである。
色相には、暖色、中性色、寒色があり、暖色系は手前に進出して見える進出色で、寒色系は後退色である。
暗い色は明るい色よりも重厚感がある。
彩度が低いと、渋みや落ち着きを与える。
マンセル表色系は、色彩の表現の一方法である。
物体の色は、光が物体に入射したときの透過・反射した成分により決まる。従って分光分布によりわかる。
作業環境と光
作業環境による照度
作業環境により、一般的な事務作業は300lx以上、付随的な事務作業は150lx以上とする。(令和4年12月1日に法改正)
(改正前:粗な作業では70lx以上、普通の作業では150lx以上、精密な作業では300lx以上)
VDT(Visual Display Terminals)作業ではディスプレイ画面は500lx以下として、書類やキーボード上の照度は300lx以上とする。
VDT作業の環境改善
VDT作業で最も多い自覚症状は眼に関するもので、表示画面を注視することにより、瞬目回数が減少することが原因となる。ドライアイを引き起こす可能性がある。
ディスプレイ画面の明るさ、書類及びキーボード面における明るさと、周囲の明るさとの差は、なるべく小さくする必要がある。
明るさ対策として、太陽光の入射、表示画面への窓の映込みを防ぐ、反射防止型ディスプレイを用いるなどがある。
ディスプレイまわりの視野内の輝度をほぼ同じレベルにする必要がある。
輝度対策として、グレア防止用照明器具を用いる、間接照明の使用などがある。
眼と表示画面、眼と書類などとの距離は、同じ程度にすることが望ましい。
作業姿勢対策として、画面の上端が眼の高さとほぼ同じかやや下になる高さにする、遠近両用メガネの使用を避ける、ノート型パソコンの長時間使用を避けるなどがある。
一連続作業時間は60分を超えないようにする。
照明の質
照明の質を高めるためには、照度だけではなく、グレアを防止することが必要である。
グレアとは、視野内で過度に輝度が高い点などが見えることによって起きる不快感や見にくさである。
観測者から見た照明器具の発光部の立体角が大きいほど、照明器具の不快グレアの程度を表すUGRの値は大きくなる。
視野内の輝度はほぼ同じにする。輝度分布が大きすぎると視覚的疲労感を生じる。
光が当たった物体の境界面が平滑な場合、光は正反射して光沢となる。
環境配色
環境色の管理は、色彩のもつ性質を利用して安全で疲労の少ない快適な環境づくりを行うためのものである。
配色については、室内などの全面積の10%以上を占める色を基調色、それ以外の色をアクセント色という。
色彩を使って環境を調節する一つの指針として、ジャッドの色彩調節の原理(似ている色・色相・トーンは調和する)がある。
一般に事務所などの天井は白、又はごく薄い色とし、壁も明るい色とする。
色による表示
- 赤紫色:放射能の危険個所
- 赤色:禁止・停止・防火
- 黄赤色:注意・危険
- 白色:通路
- 青色:指示・誘導
- 緑色:安全状態
光の指標
演色性
物体の色の見え方を決める光源の性質をいう。
基準光で照らした場合の色を、どの程度忠実に再現できるかを判定する指標である。
自然光を基準とし、光源の分光分布に関係する。
平均演色評価数(Ra)で表される。
平均演色評価数(Ra)
演色性の指数で、自然光(基準光)を100とする。100に近いほど基準光源とのずれが小さい。
室内の照明では、平均演色評価数は80~90が好ましいとされている。
この値は色温度によって変わらない。
色温度
光源の光の色を定量的に表現したもの。
黒体から放射される光の色とその時の黒体の絶対温度をもって光の色を絶対温度で表現する。
絶対温度で表現するので単位は[K]となる。
色温度が高い色ほど青みがかった色となり、精密作業などに向いている。低い色は、休息や団らんに適している。
蛍光ランプの色温度の値は、電球色(4000K)<昼白色(5000K)<昼光色(7000K)である。
太陽光との比較では、白熱電球(2800K)<曇天の空(7000K)<晴天の青空(10000K)以上である。
プランクの放射則
黒体からの放射は、放射エネルギーの波長分布が温度に依存し、高温ほど短い波長の光を多く放出する。
放出される電磁波の分光分布は、黒体の温度の上昇に従って赤→黄→青白と変化する。
黒体放射の分光分布は、プランクの放射則によって計算でき、放射特性を表す曲線をプランクの放射曲線と呼ぶ。
室内の照明指標
照度均斉度
照明の明るさのムラを示す指標で、最小照度/最大照度または、最小照度/平均照度。
室指数
室内照明の到達を計算する場合の外的要素を示す。照明率を求める際に使用する。
室指数=(室の間口×室の奥行き)/((室の間口+室の奥行き)×作業面から光源までの高さ)
人工照明の照度基準
JISの照明基準総則に事務所の維持照明の推奨値が決められている。
照度が高い順に以下となる。
玄関ホール>会議室>講堂>エレベータ>倉庫>階段>休憩室>廊下>非常階段
日射と太陽光
日射
日射量
単位面積が単位時間に太陽から受ける放射エネルギーの量。
単位は[W/m2]である。(時間hはいらない)
大気圏外においての放射エネルギーは、太陽定数と言う。
季節と方位
夏は入射角度が大きい(太陽の位置が高い)ので、日射量は、鉛直面(壁)<水平面、さらに鉛直面では、南<東・西となる。
冬は入射角度が小さい(太陽の位置が低い)ので、日射量は、鉛直面(壁)>水平面、さらに鉛直面では、南>東・西となる。
緯度が高い地域(北の地域)ほど、冬の入射角度の特性に近くなる。
夏は南面の日射量は少ないので、南側の面が多い建築物(東西に長い建物)の方が冷房負荷は少なくてすむ。
放射エネルギーの種類
太陽から直接到達する日射は短波長放射と呼ばれ、直接地表に到達する直達日射と、太陽光が大気中で散乱して地表に到達する天空日射がある。
太陽の日射が地表や大気に吸収され、その熱が赤外線で放出されるものを、長波長放射と呼ぶ。
照返しの熱量は、照返し面での日射反射量と、その面での熱放射量とに分けられる。
日射遮へい係数
日射遮へい係数=(窓ガラスなどを通したときの日射熱取得)/(3mm厚の透明フロートガラス板の日射熱取得)
遮蔽係数の数値が小さくなるほど日射熱をよく遮ることを意味する。
日射熱取得率
日射の室内に注ぎ込む割合。
日射熱取得率=(透過した日射量+吸収後に室内に放射する日射量)/入射した日射量
窓ガラスを通しての日射熱取得率ηは以下のようになる。
η=τ+(α×αi/αi+αo)
τ:ガラスの透過率
α:吸収率
αi:屋内側表面熱伝達率
αo:屋外側表面熱伝達率
遮熱性
近赤外線の反射率が大きいことである。
アルベド
任意の面に入射した日射量に対し、その面での反射した日射量の割合をいう。
入射光の全てを反射する場合を1、全てを吸収する場合を0としてその物質などの反射の度合いを示す。
太陽光
全天空照度
障害物のない屋外で計測される、天空光だけの水平面照度のこと。
太陽光で直射日光以外の光を天空光という。
設計用全天空照度は、快晴よりも薄曇りの方が高い。
直射照度(直射日光)と全天空照度を合わせたものを、グローバル照度(全天照度)という。
昼光率
全天空照度に対する室内のある点の昼光による照度の比率を表す。(室内のある点における水平面照度/全天空照度)
直接昼光率は、窓から入る直射日光以外の直接光である。
間接昼光率は、室内で反射した光である。
日影曲線
季節ごとに地面に垂直な単位長さの棒が、1日(日の出から日の入りまで)の間に水平面に落とす影の軌跡を描いたもの。
建築物の採光
住宅の採光は、居室の床面積に対し1/7以上必要である。
建築物は、南側の隣家の日照を確保するために、北側に高さ制限を設けている。
オリエンテーションとは、方位のことで、南北の冷房の負荷などに影響する。
同じ面積であれば、側窓よりも天窓の方が多く昼光を採り入れられる。
直射日光は天気によって大きく変動するため、昼光を照明として利用する場合は、天空光のみを利用する。
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