建築物衛生法
建築物における衛生的環境の確保に関する法律。
特定建築物の所有者等の維持管理について権原を有するものに、建築物環境衛生管理基準に従って維持管理することを義務付けている。
特定建築物以外であっても、多数の者が使用し、又は利用する建築物の所有者等の維持管理について権原を有するものは、建築物環境衛生管理基準に従って維持管理するよう努めなければならない。
監督官庁は、都道府県知事、保健所を設置する市長、又は特別区の区長である。
目的
この法律は、多数の者が使用し、又は利用する建築物の維持管理に関し環境衛生上必要な事項等を定めることにより、その建築物における衛生的な環境の確保を図り、もって公衆衛生の向上及び増進に資することを目的とする。
適用範囲
「特定建築物」を定義し、その建築物に対して適用される。
建築物内は用途ごとに分けず、建築物全体に同一の基準が適用される。
内容
特定建築物の維持管理に関し、環境衛生上必要な事項等を定めている。
建築物の設計指針や、構造設備などを定めるものではない。
労働者の安全と健康を確保するものではない。
罰則
罰則を受ける者は、基本的に所有者等の維持管理について権原を有するものであり、建築物環境衛生管理技術者ではない。
建築物衛生法に関する罰則は30万円以下の罰金が標準である。
但し、「建築物環境衛生管理基準」に適合しなかっただけで実害が発生していない場合の罰則、改善命令はない。
特定建築物
多数の者が使用し利用する相当程度の規模を有する建築物で、その維持管理について環境衛生上特に配慮が必要なものとして政令で定めるものをいう。
特定建築物の定義
建築基準法に定義される建築物であること。
1つの建築物において、特定用途に使用される建築物であること。
特定用途の延べ面積の合計が3000m2以上、学校(幼稚園・特別支援学校・高専含む、各種学校は事務所扱い)は8000m2以上であること。
延べ面積は、敷地内ではなく一棟の建築物毎に計算する。
延べ面積の算定方法は、建築基準法の定義に基づく算定方法とは異なる場合がある。
特定建築物としての特定用途に該当するもの
興行場、百貨店、集会場、図書館、博物館、美術館、遊技場、店舗、事務所、学校、旅館・ホテル。
特定建築物としての特定用途に該当しないもの
寺院・教会、工場、病院・老人ホーム・保育施設、寄宿舎・共同住宅、駅舎、自然科学研究所(人文科学研究所は事務所扱い)、体育館・スポーツジム。
延べ面積計算時に特定用途に含める部分
廊下、階段などの共用部分や、入居したテナントに付属する倉庫・駐車場などは含める。
延べ面積計算時に特定用途から除外される部分
不特定の人が利用する倉庫、公共駐車場、診療所、鉄道のプラットホームや保安施設、地下道、電気事業者の地下式変電所、住居は含まない。
建築物の名称と定義
- 興行場:興行場法に規定する興行場に限られる。
- 旅館:旅館業法に規定する施設に限られる。
- 図書館:図書館法に規定する図書館に限らない。
- 博物館:博物館法に規定する博物館に限らない。
- 百貨店:大規模小売店舗立地法に規定する大規模小売店舗に限られる。
- 学校:学校教育法に規定する学校に限らない。
特定建築物の届出
特定建築物の所有者等の維持管理について権原を有するものが、所在地を管轄する都道府県知事(保健所を設置する市又は特別区にあっては、市長又は区長)へ届出を行う。厚生労働大臣ではなく、保健所の単位で管理する。
区分所有の場合は、各所有者が連名で1通の届出を行う。
使用開始後、変更などで該当しなくなった日、該当するようになった日、届出事項に変更があった日から1カ月以内に行う。
国や地方公共団体の公共施設も届出が必要である。
届出事項は省令(建築物衛生法施行規則)により、名称・所在地・用途・延べ面積・構造設備の概要・所有者や維持管理権限者の氏名と住所・建築物衛生管理技術者の氏名と住所・使用開始日が含まれる。(竣工年月日、建築確認済証の写しは必要ない)
届出の様式は、管轄する保健所によって異なる。
届出の違反は30万円以下の罰金となるが、使用停止処分はない。
建築主事又は指定確認検査機関は、特定建築物に該当する建築物に関して建築確認申請書を受理した場合は、保健所長に通知しなければならない。保健所長は、必要があると認める場合においては、特定行政庁、建築主事又は指定確認検査機関に対して意見を述べることができる。
特定建築物の帳簿書類
帳簿書類は、建築平面図・断面図・設備配置図・系統図に関する物は永久に保存する。
空気環境の調整・給水及び排水の管理・清掃(廃棄物の処理を含む)・ねずみ等の防除の4種類の点検整備記録は5年間保存する。
電気・ガス設備、防火・防災設備、エレベータ等の記録は、この範囲ではない。
帳簿を備えていない場合や虚偽を記載した場合は、30万円以下の罰金となる。
特定建築物の立入検査
都道府県知事(保健所を有する場合は市長又は区長)は、必要があると認めるときは立入検査をすることができる。(特定建築物のみ)
特定建築物の立入検査の職権を行う職員を、環境衛生監視員と称する。職員は身分を示す証明書を携帯しなければならない。
特定建築物に対する立入検査は、犯罪捜査のために行ってはならない。
立入検査は日時の通知は必要ないが、居住者の承諾は必要である。
都道府県知事は、特定建築物内における人の健康をそこなうときは、維持管理権原者に対して改善命令や使用停止命令等の処分を行うことができる。
改善命令に従わない場合や立入検査を拒んだ場合は、30万円以下の罰金となる。
立入検査によって、特定建築物の維持管理が建築物環境衛生管理基準に従って行われておらず、人の健康をそこない、又はそこなうおそれのあるときは、その特定建築物の維持管理権原者に対して改善命令や使用停止命令等の処分を行うことができる。
特定建築物が国又は地方公共団体の公用又は公共の用に供するものである場合の例外
都道府県知事(保健所を有する場合は市長又は区長)は、立入検査を行うことができない。
特定建築物内における人の健康をそこなうと認められるときは、国若しくは地方公共団体の機関の長又はその委任を受けた者に対し、その旨を通知するとともに、当該維持管理の方法の改善その他の必要な措置を採るべきことを勧告することができる。(改善命令ではなく、勧告となる)
特定建築物の届出、建築物環境衛生管理基準の遵守、建築物環境衛生管理技術者の選任、都道府県知事が維持管理記録の提出を求めることは例外なく必要である。
建築物環境衛生管理技術者
特定建築物の所有者等の維持管理について権原を有するものに、建築物環境衛生管理技術者の選任を義務づけている。
建築物環境衛生管理技術者の責務
建築物環境衛生管理技術者は、維持管理が環境衛生上適正に行われるように監督しなければならない。
建築物環境衛生管理基準に関する測定又は検査結果の評価を行う。
特定建築物の所有者等の維持管理について権原を有するものに対し、意見(命令ではない)を述べることができる。当該権原を有するものは、その意見を尊重しなければならない。
環境衛生上著しく不適当な事態が発生した場合の責任や、帳簿書類、設備の維持管理の義務は建築物維持管理権原者にあり、建築物環境衛生管理技術者ではない。
維持管理に従事する職員の雇用や労務に関しては関係しない。
立入検査に立ち会う義務はない。
建築物環境衛生管理技術者の選任
建築物環境衛生管理技術者は、建築物毎に選任しなければならないが、常駐する必要はない。業務の遂行に支障がない場合は兼任が可能である。
所有者等との間に雇用関係は必要ない。
選任しなかった場合、所有者等は30万円以下の罰金となる。
変更した場合は、1ヵ月以内に届出をする。
建築物環境衛生管理技術者の免状
免状は、講習会を終了した者、または試験に合格した者に対し、厚生労働大臣が交付する。
厚生労働大臣は、免状の交付を受けている者が、法律又は法律に基づく処分に違反した場合は、免状の返納を命ずることができる。
返納しなかった者は、10万円以下の罰金となる。(30万円ではない)
返納命令後、1年を経過していない者は、免状の交付はおこなわれない場合がある。
死亡した場合は、1ヵ月以内に返還する。
免状を汚したり紛失した場合は、再交付が可能である。
免状の再交付を受けた後、失った免状を発見したときは、5日以内にこれを厚生労働大臣に返還する。
免状の記載事項に変更を生じたときは、免状の書換え交付を申請することができるが、義務ではない。
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