衛生動物
衛生動物とは、私たちの健康に影響のある虫、ダニ及びネズミなどのことで、人への影響の与え方によって次のように分類している。
- 有害動物:人に直接の害を与える動物。(ペスト)
- 媒介動物:感染症を媒介する動物。(ベクター)
- 不快動物:人の健康に直接の被害を与えないが、見た目に不快である動物。(ニューサンス)
昆虫等に対する不快感の程度は、第三者による客観的な判断が困難である。
害虫
人間の生活に害を与える虫。
吸血昆虫の中には、幼虫、成虫、雌、雄ともに吸血する種類がある。
害虫によって、感染症が伝搬されることは少ない。
建築物内は環境が安定しているため、害虫類に適している。
害虫は、建築物に食害を及ぼすシロアリは含まれない。
防除の考え方
ねずみ等の防除においては、IPMの理念に基づく防除を実施しなければならない。
建築物内に発生するねずみ・害虫の防除対策の基本は、室内への侵入防止対策と発生環境の清掃や整理などによる発生源対策である。
防除は、発生時対策より発生予防対策に重点を置いて実施する。
防除は、餌を断つこと、巣を作らせないこと及び通路を遮断することが重要で、食べ物の管理と環境の整備が基本である。
現に発生しているねずみ・害虫に対しては、必要に応じて薬剤や器具などによる発生時対策を行う。防除の実情を見ると、発生源対策が軽視されている。
ペスト(有害動物)コントロールには、ベクター(媒介動物)コントロールとニューサンス(不快動物)コントロールの二つの側面がある。
防除は、人の健康に対するリスクと環境への負荷を最小限にとどめるような方法で実施する。
環境的対策は、特定建築物維持管理権原者のもとで当該区域の管理者が日常的に行う。
IPM(総合的有害生物管理)
IPM(Integrated Pest Management)とは、ねずみ・害虫管理の考え方(理念)である。
発生源や被害調査を事前に行って、許容限度としての数値目標を設けて防除目標とする。
その後、防除法の選定を行って対策を行い、生息指数による評価を実施する。
防除法の選定では、発生予防対策や侵入防止対策を優先的に検討する必要がある。
環境改善と、状況に応じた薬剤使用を組み合わせて、害虫を減らすシステムである。
設定される維持管理水準値は、該当建築物又は該当場所ごとに設定することができ、現場の使用用途などの状況に応じた個別水準値を設定することも可能である。
IPMの水準
- 許容水準:良好な状態で、このまま維持したい水準。定期的な調査を継続すればよい。
- 警戒水準:現状で大した問題はないが、放っておくと問題が生じるかもしれない水準。
- 措置水準:状況は悪く、すぐに防除作業が必要な水準。
室内侵入防止
特定建築物の防虫・防鼠構造は、建築物の新築時に設計段階で、侵入や活動を防ぐ作りを取り入れるべきである。
建築基準法の規定により、保健所長による審査が行われる場合がある。
ネズミの侵入防止
通風口や換気口に1cm以下の金属網を設置する。
ドア周辺の隙間は1cm以内にする。
自動開閉式ドアを設置する。
建物の外壁とツタや樹木の枝を接触させない。
建物の基礎を深さや1階の窓の下端と地表との距離を、侵入できない程度離す。
昆虫の侵入防止
昆虫の室内侵入防止には、20メッシュより細かい網目の網戸などを設置する。(20メッシュとは、1インチに20×20マスなので、細かくするとメッシュ数は大きくなる)
建築物の外壁を断熱性の高いものにすることで、昆虫の室内侵入を減らすことができる。
昆虫にとっての可視光域は、紫外線領域で波長の短い色(青)のほうが誘引性が高くなる。従って白色蛍光灯は、高圧ナトリウム灯に比べて昆虫類を誘引しやすい。
電撃式殺虫機は、短波長の誘引ランプに誘引されて集まった昆虫を高圧電流に触れさせて感電死させる器具である。
電撃式殺虫機は、誘引ランプで昆虫を集めてしまうので、侵入のおそれのある窓際や出入口、食品を取扱う場所には設置しない。
浄化槽の防除
浄化槽のような密閉空間では、樹脂蒸散剤を空間につるすことが有効である。
浄化槽の水中にクレゾールなどの殺虫剤や、乳剤に含まれる界面活性剤や有機溶剤を使用すると、浄化槽の微生物が死ぬおそれがある。
幼虫に対する薬剤の使用は、乳剤を薄めて水中に投入する。また飲料用の貯水槽にも使用できない。
浄化槽内の殺虫剤処理後も成虫数が減少しない場合は、薬剤抵抗性の発達を考慮して対応する必要がある。
防除の調査・効果判定
防除を効果的に行うためには、目視調査、吸血被害等の聞取調査、トラップ等による成虫の発生状況の調査を行う。
薬剤を用いて防除を行う際には、生息場所や生息密度などの調査を行う必要がある。
防除の調査
食品害虫の発生調査には、フェロモントラップ(雌のフェロモンを利用して誘引された雄を捕獲する)が利用されている。
ハエ類の成虫の調査には、粘着リボン法を使用する。
イエダニや室内塵性ダニ類などの簡易的な調査には、ローラ式の粘着クリーナを用いることができる。
昆虫や蚊の調査には、ライトトラップ(短波長誘引ランプに誘引された昆虫を捕獲する)や粘着トラップを使用する。
ネズミの調査には、証跡調査法(糞尿、臭い、足跡などから行動範囲を分析する)を使用する。
排水槽・浄化槽での成虫の発生状況は、粘着トラップの捕獲数で調査する。幼虫の発生状況は、柄杓などですくって数を調べる。
防除の効果判定
防除作業後には、効果判定調査を行うことが重要である。
害虫の防除作業の効果判定は、施工評価、防除技術評価、死虫数の確認の3つで行う。
有害生物の密度調査などによって、その効果について客観性のある評価を行う。
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