浄化槽の法律
浄化槽の定義
浄化槽とは、便所と連結して、し尿及びこれと併せて雑排水を処理し、下水道法に規定する終末処理場を有する公共下水道以外に放流するための設備又は施設であって、同法に規定する公共下水道及び流域下水道並びに廃棄物の処理及び清掃に関する法律の規定により定められた計画に従って市町村が設置したし尿処理施設以外のものをいう。
みなし浄化槽は、水洗便所からの汚水のみを処理する浄化槽である。
浄化槽法
浄化槽工事業の登録制度、浄化槽保守点検業の登録制度、浄化槽清掃業の許可制度、浄化槽設備士及び浄化槽管理士の国家資格などを規定している。
浄化槽によるし尿及び雑排水の適正な処理を図ることが示されている。
浄化槽の設置、保守点検、清掃及び製造について規制することが示されている。
所管は、環境省、一部は国土交通省である。
浄化槽管理者の責務
浄化槽管理者とは、「当該浄化槽の所有者、占有者その他の者で当該浄化槽の管理について権原を有するもの。」と定義されており、家庭では世帯主が該当する。
浄化槽を設置を、都道府県知事または保健所の設置場所の長に届け出る。
浄化槽の保守点検、清掃、法定検査等について環境省令で定められた技術上の基準に従って行わなければならない。
保守点検と清掃の作業内容の記録を作成し、記録は3年間保存する。
対象人員501人以上の浄化槽には、技術管理者として浄化槽管理士の資格を持つ浄化槽技術管理者(設備士ではない)を設置する。
浄化槽の関連業
浄化槽工事業、浄化槽点検業を営もうとする者は、都道府県知事の登録を受けなければならない。
浄化槽清掃業を営もうとする者は、市町村長の許可を受けなければならない。
排水の指標
消費酸素量による指標
BOD(生物化学的酸素要求量)
水の汚濁状態を表す指標で、水中の有機物質が好気性微生物によって分解される際に消費される酸素量を表したものである。
培養温度20℃、暗所で5日間、水中の溶存酸素量の変化を測定する。
BOD濃度が高ければ、溶存酸素の消費量は大きい。水の汚れが大きいことになる。
浄化槽法に規定する放流水のBOD値の基準は、1日あたり20mg/L以下である。BOD除去率を90%以上とする。
塩素消毒では、BODが高い場合は、量を増やすが、すべての微生物を殺すものではない。
BOD容積負荷は、1日に1m3当たりBOD量をどれだけ処理させるかを示し、ばっ気槽の能力を表す単位で、計算式は以下となる。
BOD容積負荷[kg/(m3・日)]=BOD濃度[mg/L]×汚水量[m3/日]÷ばっ気槽容量[m3]
BOD負荷量は、1日に一人当たりの排出する汚れの量で、単位は[g/(人・日)]である。
COD(化学的酸素要求量)
水の汚濁状態を表す指標で、水中の有機物質が酸化剤によって酸化される際に消費される酸素量を表したものである。
化学的酸素要求量の単位は、[mg/L]である。
浄化槽法では放流水のCOD値の基準は、設けられていない。
(BOD/COD)比が高い排水は、物理化学処理法より生物処理法が適している。
浮遊物質の指標
浮遊物質(SS)
懸濁物質ともいう。
水中に懸濁している1μmを超えて2mm以下の物質の量を表す。(孔径1/μmのろ過材上に残留する物質)
水質汚濁防止法での排出基準は、200mg/Lである。
懸濁物質の高い排水は低コストでの処理は難しい。
活性汚泥浮遊物質(MLSS)
活性汚泥処理のばっ気槽混合液の浮遊物質の濃度のこと。
活性汚泥中の微生物量の指標の一つとして用いられる。
単位は[mg/L]である。
活性汚泥沈殿率(SV)
メスシリンダーで一定時間汚泥を静置した際の、沈殿した汚泥の割合。
活性汚泥の量や沈降性の指標として用いられる。
汚泥容量指標(SVI)
汚泥1gが占める容量をmlで表したもの。
活性汚泥の沈降性を表す指標である。
SVI値が高いと、凝集性・沈降性の悪い軽い活性汚泥であることを示す。
その他の指標
DO(溶存酸素量)
水中に溶解している分子状の酸素量を表す。
生物処理工程の管理や放流水質を評価する際の指標である。
溶存酸素量が高いほど、水質は良い。
単位は[mg/L]である。
透明度
BODや浮遊物質と相関を示すことが多く、汚水処理の進行状況を推定する指標として用いられる。
pH値
汚水の処理工程において変化するため、処理の進行状況を推定する際に用いられる。
pH値が高い場合(アルカリ性)は、硝化反応(有機物の良好な処理)が進行していないことを示す。
総アルカリ度
水溶液を所定のpHにするために必要な酸の量を、炭酸カルシウム換算して表示したもの。
値が大きければ、pHに対する許容度が高い。
硝化・脱窒反応や凝集反応における指標として用いられる。
排水処理施設(浄化槽)の構成
排水の浄化は、微生物を利用して行われる。微生物には好気性と嫌気性の2種類が存在する。
- 好気性微生物:酸素が十分にある好気性条件において有機物を分解する微生物。
- 嫌気性微生物:酸素のない嫌気的条件において有機物を分解する微生物。
排水処理施設は、分離槽、生物処理槽、沈殿槽、ろ過槽、消毒槽、付属装置、汚水・汚泥・空気を移送する配管から構成される。
下水処理施設(終末処理場、浄化槽)、排水再利用施設(雑用水)における排水処理の基本的フローシートは以下となる。
集水→分離槽(スクリーン→流量調整槽)→生物処理槽→沈殿槽→ろ過槽→消毒槽→排水処理水槽→配水
分離槽
汚水中の夾雑物(きょうざつぶつ)(汚物や固形物などの異物)を分離・貯留する。
嫌気ろ床槽や、スクリーンと流量調整槽を使用する。
臭気の点から密閉性が要求される。
嫌気ろ床槽
汚水中の浮遊物をプラスチック製のろ材を使って取り除く槽。
ろ材に付いた嫌気性微生物が有機物を分解する。
嫌気性微生物のため、酸素は必要ない。
スクリーン
汚水を網目に通すことで、浮遊固形物を取り除く。
浮遊物を分離した後、流量調整槽に貯留する。
流量調整槽
排水を処理が均一におこなわれるように一定量ずつ後の処理装置に送水する。
生物処理槽(ばっ気槽)や沈殿槽の濃縮汚泥の脱離液が戻される。
生物処理槽(ばっ気槽)
排水と微生物群を接触させて排水を処理する。
液体に空気を供給する行為をばっ気と呼び、ばっ気槽では、好気性微生物によって汚れを分解する。
微生物の代謝作用を利用するので、十分な空気が必要である。
微生物が付着した膜を槽内に定着させて、有機物を膜に付着させて分解するものを接触ばっ気槽と呼ぶ。
ブロワー
ばっ気槽に空気を送り、攪拌する装置。
沈殿槽
ばっ気槽混合液に含まれる浮遊物を、沈降分離する。
沈殿槽の越流負荷を大きくすると、流速が速くなり、汚泥の濃縮が不十分となる。
凝集処理装置
沈殿槽で、凝集沈殿法によって固液分離する装置。
凝集剤で、微細な粒子を基礎フロックと呼ばれる大きさに集め、凝集助剤(ポリマー)で、基礎フロックをさらに大きな粗大フロックにして沈殿させる。
ろ過槽
ろ材(活性炭など)や高分子膜などの物質を利用して、処理水中の微粒子を大きさに応じて分別する。
精密ろ過膜の有効径の単位は、[μm]である。
消毒槽
固形塩素剤などで処理水を消毒する。
オゾン酸化装置
オゾンの強い酸化力を利用して、殺菌・脱臭・脱色を行うことができる。
わずかに残存するCODや色度成分を分解できる。
排水処理の方法
活性汚泥法
ばっき槽の中に有機物を吸着・分解する活性汚泥を入れ、汚水を効率よく接触させ、空気を送って微生物の代謝作用によって浄化する方法。
活性汚泥は、主として好気性の条件下で生息する細菌や原生動物などの微生物の集合体である。
昔からある方式で、下水道施設や大型の浄化槽で使用される。
沈殿槽で分離された汚泥は、再びばっき槽へ返送され、微生物量を増加させて濃度を保つ。
活性汚泥の水分が多くなったり糸状性細菌が増えたりすることによって膨張し、活性汚泥が沈降しにくくなる現象をバルキングという。
長時間ばっ気方式
活性汚泥法で、ばっ気槽での処理時間を長くすることで、余剰汚泥の発生量を少なくする方式。
膜分離活性汚泥処理方式(MBR)
活性汚泥法で、処理水と活性汚泥との分離に使用する沈殿槽の代わりに、分離膜として精密ろ過膜(MF)を使用する。
膜モジュールを生物処理槽内に浸漬した、槽内浸漬型が一般的である。
透過水量の低下を防止するため、定期的に膜の洗浄を行う。
生物膜法(接触ばっ気法)
担体の表面に微生物が付着した膜(生物膜)を槽内に定着させて、排水中の有機物を膜に付着させて分解して浄化する方法。
分解能力は活性汚泥法よりも低いが、活性汚泥法のような返送汚泥などが無く、処理槽の容積を小さくできるため、浄化槽の主流となっている。
分離接触ばっ気方式
接触ばっ気法で、分離槽(スクリーン→流量調整槽の部分)に沈殿分離槽を使用する方式。
嫌気性ろ床接触ばっ気方式
接触ばっ気法で、分離槽(スクリーン→流量調整槽の部分)に嫌気ろ床槽を使用する方式。
嫌気ろ床槽では、嫌気性微生物が有機物を分解することができる。
国土交通大臣が定めた構造基準による処理方式で、これまでに最も多く設置されている。
脱窒ろ床接触ばっ気方式
接触ばっ気法で、分離槽(スクリーン→流量調整槽の部分)に脱窒ろ床槽を使用する方式。
脱窒ろ床槽は、嫌気ろ床槽と同等だが、接触ばっ気槽からの汚水を返送して生物的窒素除去ができる。
嫌気性脱窒および硝化反応を確実に行うこととなっている。
リン除去脱窒ろ床ばっ気方式
脱窒ろ床接触ばっ気方式にリン除去装置が設置される方式。
生物学的脱窒素法
好気性微生物(硝化菌)と通性嫌気性細菌(脱窒菌)という2種類の微生物を利用した処理方法。
硝化工程で、硝化菌が排水中のアンモニアを硝酸まで酸化させる。
脱窒工程で、脱窒菌が嫌気性条件で硝酸を窒素ガスに還元する。
逆浸透膜(RO膜)法
水を通し、イオンや塩類など水以外の不純物は透過しない性質を持つ膜を利用した高度な水処理の方法。
排水処理ではなく、飲料水を生成する浄水法である。
汚染物質の除去方法
浮遊性の残存有機物質
浮遊性の残存有機物質の除去方法として、凝集沈殿法、砂ろ過法、急速ろ過法、膜ろ過法などがある。
- 凝集沈殿法:凝集剤を添加し、フロックを作り(凝集)沈殿させる方法。
- 砂ろ過法:ろ過層に水を通し、ろ材への付着と、ろ層でのふるい分けによって濁質を除去する方法。
- 急速ろ過法:凝集剤を添加し沈殿させた後の上澄みを、早い速度でろ過池の砂層に通して除去する方法。
- 膜ろ過法:膜の孔径よりも寸法の大きい汚れや病原性微生物などを膜表面で止め、孔径[μm]よりも小さいミネラルなどを通過させる方法。
溶解性の残存有機物質
溶解性物質は、試料をガラス繊維ろ紙(孔径1μm)でろ過し、ろ液を蒸発乾固したときの残留物の重量で表す。
溶解性の残存有機物質の除去方法として、接触ばっ気法、活性炭吸着法、化学的酸化法などがある。
- 接触ばっ気法:微生物に汚水を接触させて汚濁物質を分解させる方法。
- 活性炭吸着法:活性炭の細孔内表面における吸着現象を利用して、ガスや液体中の汚染物質を除去する方法。
- 化学的酸化法:酸化剤を利用して汚染物質を無害な物質に分解する方法。
その他の汚染物質
窒素化合物
全窒素とは、有機性窒素、無機性窒素(アンモニア性窒素、亜硝酸性窒素、硝酸性窒素)の総和である。
生物学的硝化脱窒法によって除去する。
閉鎖性水域の富栄養化の原因物質の一つである。
アンモニア
イオン交換法によって除去する。
イオン交換法は、イオン交換樹脂によって、排水中の溶存アンモニウムイオンと硝酸イオンをイオン交換することで除去する方法である。
リン化合物
凝集沈殿法によって除去する。
アルミ塩・鉄塩と反応させ金属塩として沈殿させる方法と、消石灰や塩化カルシウムと反応させてカルシウム塩として沈殿させる方法がある。
閉鎖性水域の富栄養化の原因物質の一つである。
色度・臭気
活性炭やオゾンで処理する。
浄化槽の保守
保守点検及び清掃は、法令で定められた技術上の基準に従って行う。
浄化槽の点検
最初の保守点検は使用開始直前に行い、開始後3カ月経過した日から5カ月以内に指定検査機関の行う法定検査を受検する。但し罰則はない。
毎年1回、指定検査機関の行う水質検査を受けなければならない。
保守点検については、登録を受けた浄化槽保守点検業者(登録制度が設けられていない場合は浄化槽管理士)に委託することができる。
保守点検の頻度は以下の通り。
- 活性汚泥方式:1週に1回
- 接触ばっ気方式で、砂ろ過装置・活性炭吸着装置・凝集槽を有するもの:1週に1回
- 接触ばっ気方式で、スクリーン及び流量調整槽を有するもの:2週に1回
- その他:3カ月に1回
浄化槽の各部と点検内容
- スクリーン・嫌気ろ床槽:目詰まりや閉塞の状況、汚物が堆積しないように適時除去する。
- 流量調整槽:ポンプの作動状況、水位、流量。
- ばっ気槽:活性汚泥浮遊物質(MLSS)濃度、溶存酸素濃度、空気供給量、30分間汚泥沈殿率。
- 接触ばっ気槽:生物膜の生成状況
- 沈殿槽:堆積汚泥の生成状況。凝集処理のフロック形成状態。
- ろ過槽:通水速度、透過水量、ろ層の閉塞状況。損失水頭の算出。ろ材の洗浄が適切に行われていること。
- 汚泥貯留槽:スカムの貯留状況。
- 消毒槽:沈殿物の堆積状況。
- 活性炭処理装置:通水速度の保持。
- 水質検査:透視度など。
浄化槽の清掃
清掃は1年に1回おこなう。(ただし全ばっ気型は1年に2回)
汚泥やスカムの引き出し、槽内の調整、単位装置の洗浄と清掃を行う。
浄化槽汚泥は、一般廃棄物となる。
浄化槽汚泥は、し尿処理施設又は下水道投入によって処理されている。
ろ材(ストレーナ)に溜まった汚れやを洗浄するには、逆洗洗浄(ろ材に溜まった汚れを反対側から水を流すことで洗浄する)を行う。
Ver.1.2.1