電気事故と保護協調
電気事故
電気設備は、意図しない経路に電流が流れないように絶縁されている。
この絶縁がなんらかの原因で破壊され、意図しない経路に電流が流れてしまうと事故となる。
- 短絡:電位差のある電線間の絶縁が破壊され、接触(いわゆるショート)して大電流が流れる事故である。
- 地絡:電線の劣化やアークなどで絶縁が破壊され、大地に電流(漏えい電流)が流れる事故である。
- 漏電:地絡と同様の現象だが、低圧機器の絶縁不良などで起きる地絡の小さなものである。
保護協調
保護協調とは、事故回路を検出した場合に事故回路のみを切り離し、他の健全回路を守ることができるように、保護装置(遮断器等)の動作値・動作時間を相互に調整することである。
使用設備内での保護協調だけでなく、電力会社の変電所との保護協調も必要となる。
保護協調には、過電流保護協調と地絡保護協調がある。
過電流保護協調
電路に過電流や短絡が発生した時、故障回路の保護装置のみが動作し、他の健全回路では受電を継続できるように動作特性を調整する。
以下の順番で先に動作するように協調させる。
変圧器二次側配線用遮断器<需要家の受電側過電流継電器<配電用変電所の過電流継電器
(遮断特性のグラフでは、需要家の曲線は、配電側の曲線の下側になるようにする)
過電流保護協調においては、動作協調(所定の時間内に確実に系統から切り離す)と短絡強度協調(短絡電流に対する機器の熱的・機械的強度)が満たされて、初めて保護協調が保たれているといえる。
電気事業者との保護協調
需要家の過電流継電器は、配電用変電所の過電流継電器より早く動作するように設定しなければならない。自家用受変電設備に起因する事故によって、電力会社の送配電系統を停電させてしまう波及事故を防止する。
過電流継電器(OCR)の整定
電力会社の配電用変電所の保護継電器よりも先に受電設備の保護継電器が動作するよう、保護協調のための設定値を決める。
限時要素(最大電流値と時間の組み合わせ)、瞬時要素(瞬時に動作する最大電流値)を設定する。
特性の種類
- 反限時特性:電気量が増加すると共に動作時間が短くなる。送電線の短絡保護に適する。
- 強反限時特性:電気機器の過負荷特性に合っており、配電線の保護や変圧器の保護に適する。
- 超反限時特性:電流の2乗に反比例した特性でジュール熱特性に合っている。電気機器の過負荷保護に適する。
- 反限時定限時特性:電気量が小さいところでは反限時特性だが、ある電気量以上では定限時特性を示す。
- 定限時特性:電気量に関係なく、一定の時間で動作する。
- 瞬限時特性:電気量に関係なく、瞬時に動作する。
限時要素の設定
短絡や突入電流といった瞬間的な大電流ではなく、負荷の同時運転や空調機の過負荷などによって発生する電流値の増加を監視する。
大きな電流が流れるほど早く遮断するという特性がある。
タップ(電流値)とレバー(動作時間)を設定し、保護協調曲線を作成する。
限時電流整定値(タップ)
限時動作させる電流値の設定を行う。
一般的に契約電力の負荷電流値の120~150%とする。
限時時間設定(レバー)
限時電流整定値~瞬時電流整定値の間で、動作確定するまでの時間設定を行う。
上位(配電用変電所)のOCRと下位の保護機器(低圧MCCBなど)との動作時間特性曲線のどちらにも重ならないような動作時間を選定する。
OCRの銘板表示には通常、レバー10(最大値)設定時の電流(横軸)と動作時間(縦軸)が記されている。
例えば、横軸500%で縦軸が0.5秒の場合、整定値の5倍の電流の時、0.5秒で動作する。
動作時間を短くしたい場合は、レバーを10より減らす。レバーを5にすると動作時間は0.5×5/10=0.25秒となる。
静止形OCRでは、レバーではなく、ダイヤルで設定する。
この場合は、OCRのダイヤル毎の動作特性曲線を参照して適正な値を設定する。
瞬時要素の設定
瞬時要素で動作させる瞬時電流整定値(INST)設定する。
一般的に、契約電力の電流値の1000~1500%、限時電流整定値の10倍程度である。
瞬時要素の動作時間は、0.05秒以下で決められている。
短絡電流では動作して、変圧器の励磁突入電流では動作しないように設定する必要がある。
保護協調曲線作成時は、変圧器の突入電流は、定格電流の10倍で0.1秒間と仮定するか、時間経過の減衰カーブ曲線を記述して考える。
電力会社から三相短絡計算書をもらい、CT比(300/5A)から継電器に流れる短絡電流を求め、その値で動作するか確認する。
配電線OCRと保護協調曲線の作成
電気事業者が決めるため個々に確認が必要である。
下図の例では、限時動作電流値は360Aで0.5秒、720Aで0.2秒となっている。
高圧受電設備の保護協調をするため、この配電用OCR特性(ピンク)を基準にして、それより速く遮断され、変圧器突入電流(緑)では動作しないように過電流継電器の整定値(赤)を決める。
OCRの設定例
例として以下の条件でOCRの設定をする。
- 受電電圧:6.6kV
- 契約電力:200kW
- CT変流比:30/5A
- 使用継電器のタップ値4、5、6、7、8、10、12(定格電流5A)
- 変圧器容量:200kVA
限時電流整定値(タップ)の設定
契約電力の電流値=200000/(√3×6600)=17.5A
継電器に流れる電流(CT変流比より)=17.5×(5/30)=2.9A
限時電流整定値(1.5倍する)=2.9×1.5=4.3A
最も近い大きい値のタップ値を選んで5Aとなる。
限時動作時間の設定
電力会社からの配電用OCRの整定値・短絡電流値を入手し、変圧器突入電流より保護協調曲線を作成し、動作時間を設定する。
・誘導円板形OCRの場合
下記限時特性図の場合、限時レバー10のとき、限時電流整定値(タップ値)の4倍の電流で0.40秒で動作する。限時レバーを5に変更すれば、5/10の0.20秒で動作する。
・静止形OCRの場合
限時特性図を参照して、限時ダイヤルの値と限時電流整定値の倍率ごとの動作時間から、適切な限時ダイヤル値を決定する。
瞬時電流整定値
限時電流整定値の計算より、継電器に流れる電流=2.9A
瞬時電流値(15倍する)=2.9×15=43.5A
最も近い大きい値のタップ値を選んで50Aとなる。
瞬時要素の動作時間は、0.05秒以下固定である。
短絡電流の計算と遮断容量
三相短絡電流(3線全部短絡)
3線が短絡した場合の三相短絡電流Isは以下のようになる。
変圧器容量=√3×定格電流(I)×定格電圧(V)
$\displaystyle I_s=\frac{E}{Z}=\frac{V}{Z\sqrt{3}} \ [A] $
$\displaystyle I_s=\frac{E}{Z}=\frac{I}{\%Z}×100 \ [A] \left(\%Z=\frac{ZI}{E}×100\right) $
$I_s$:短絡電流 [$A$]
$E$:相電圧 [$V$]
$Z$:インピーダンス [$Ω$]
$V$:線電圧 [$V$]
$I$:相電流・線電流 [$A$]
$\%Z$:パーセントインピーダンス [$\%$]
単相短絡電流(2線が短絡)
2線が短絡した場合の単相短絡電流Is’は、往復2線のインピーダンスになるためインピーダンスは2Zとして計算する。
$\displaystyle {I_s}’=\frac{V}{2Z}=\frac{\sqrt{3}}{2}I_s \ [A] $
${I_s}’$:短絡電流 [$A$]
$I_s$:三相短絡電流 [$A$]
$Z$:インピーダンス [$Ω$]
$V$:線電圧 [$V$]
変圧器線路の短絡電流
電源および変圧器のパーセントインピーダンスから、短絡点から見た電源側の線路全体のパーセントインピーダンスを求め、二次側の短絡電流を求める。
線路全体のパーセントインピーダンス%Z、短絡側の定格電流Inが求まれば、下記の「短絡比とパーセントインピーダンス」の式より短絡電流Isが求まる。
$\displaystyle \%Z=\frac{I_n}{I_s}×100 \ [\%] $
$\%Z$:パーセントインピーダンス [$Ω$]
$I_n$:定格電流 [$A$]
$I_s$:短絡電流 [$A$]
電源と変圧器のパーセントインピーダンスの基準容量を変圧器側に統一して、直列接続としてパーセントインピーダンスを合算し、短絡点から見た電源側の線路全体のパーセントインピーダンスをつくる。
(基準容量をPAとした場合、%ZBの基準容量をPAに変換した%ZB’を作成して、合成パーセントインピーダンス%Zを計算する)
$\displaystyle P_B:\%Z_B=P_A:\%Z_B’ $
$\displaystyle \%Z=\%Z_A+\%Z_B’ $
下記のように、変圧器容量S=√3×短絡側定格電圧Vn×短絡側定格電流Inより短絡側定格電流を求め、最初の式から短絡電流Isが求まる。
$\displaystyle S=\sqrt{3}V_nI_n \ [VA] $
遮断器の遮断容量
遮断器が遮断できる電流を定格遮断電流という。
遮断器が短絡電流を流せる容量が無ければ遮断機能が働かないので、定格遮断電流は短絡電流よりも大きくなければならない。
遮断器の定格遮断容量PSは、三相短絡容量SSよりも大きくなる。
三相短絡容量
短絡電流が流れた時の三相短絡容量。
$\displaystyle S_s=\sqrt{3}I_sV_n=\sqrt{3}×\frac{I_n}{\%Z}×100×V_n=\frac{S}{\%Z}×100 \ [VA] $
$S_s$:三相短絡容量 [$VA$]
$I_s$:短絡電流 [$A$]
$V_n$:線電圧・定格電圧 [$V$]
$I_n$:定格電流 [$A$]
$\%Z$:パーセントインピーダンス [$\%$]
$S$:定格容量・基準容量 [$VA$]
定格遮断容量
短絡電流を遮断するために必要な遮断器の容量。
$\displaystyle P_s=\sqrt{3}I_cV_n \ [VA] $
$P_s$:定格遮断容量 [$VA$]
$I_c$:定格遮断電流 [$A$]
$V_n$:定格電圧 [$V$]
地絡保護協調
高圧受電設備においては、高圧電路に地絡を生じたとき自動的に電路を遮断するため、必要な箇所に地絡遮断装置を施設する。この地絡遮断装置は、電気事業者の配電用変電所の地絡保護装置との動作協調を図るため電気事業者と協議することとされている。
時限協調
電路末端から電源側になる程、感度が鈍くなるように整定時間タップに差をつけて整定する。
一般に上位の地絡方向継電器と下位の地絡方向継電器の間に0.3秒あれば、協調は取れるとされている。
感度協調
地絡保護継電器の保護協調は、一般に電流整定値ではなく動作時限にて行う。
動作電圧整定値は、完全一線地絡時の零相電圧を設定する。
配電用変電所との地絡保護協調
電気事業者の配電用変電所の地絡保護装置との動作協調をはかるため電気事業者と協議する。
配電用変電所のDGRは、一般的に6.6kV電路では動作電流整定値が0.2A、動作電圧整定値が零相電圧3810Vの5%(190V)、動作時間は0.5秒以上である。
高圧受電設備のGR付PAS・GR付UGSの地絡継電器の整定値は、配電用変電所と保護協調をとるため、地絡保護協調は動作時限にて行うので電流整定値(地絡電流)は同じ0.2Aとし、時限整定を0.3秒差を取って0.2秒に設定する。また零相電圧は5%(190V)に設定する。
絶縁協調
雷サージ(誘導雷)に対して、設備を構成する機器の絶縁強度に見合った避雷器を設置することによって絶縁破壊を防止すること。(過電圧の低減を行うものではない)
発変電所内では、この制限電圧に耐えるような機器の選定と機器配置を行い、全体の絶縁強度を設計する。
衝撃絶縁強度(電圧)は、電圧系統によって決まっており、避雷器より余裕を持たせた電圧を基準衝撃絶縁強度(BIL)として、以下の例のように強度設計をする。
線路がいし>結合コンデンサ>機器がいし・変成器>変圧器(BIL)>制限電圧避雷器
避雷器の制限電圧と被保護機器の絶縁強度との間の絶縁協調は、一般に20%程度の裕度をもたせる。
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